【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「伝えきれてない言葉がまだあるんじゃねぇのか?」
大輝の言葉にハッとした。
「いいじゃねぇか。
かっこ悪くっても、情けなくても、周りから見たら恥ずかしくてもさ。
それくらい人を好きになれるなんて、奇跡みたいなもんじゃん。
だからもうお前は、捨てたくない物をわざと捨てるような真似なんかしなくていい」
「もういいの。だって…どうしようもない事だもの」
「往生際の悪い女だなッ!」
そう言って、大輝はわたしの手のひらからキーケースを奪い取った。
そして、ハルと暮らしたマンションの鍵をそこから取って、海へ投げ込もうとした。
「止めて!!!」
「いつまでも未練たらしくこんな物を持ってるから、忘れられねぇんだよッ」
そう言って、右手は真っ直ぐと海へと投げられた。
夕陽に重なって、キーケースから離れた鍵はキラキラと空気中に煌めいた。
ぼろぼろと瞳から涙がこぼれた。
意識なんかしなくても、それはすごく悲しい事で
泣きたくなんかないのに、止まれと自分に言い聞かせても何度でも涙は零れ落ちた。
「やめて…
やめてよぉ……」
「どうしようもない。
相手の為?
お前が言ってるのは全部言い訳にしか聞こえねぇ。
いつまでそうやってうじうじ悩んでいる気だ?俺が好きになった琴子つー人間はそういう奴じゃねぇ。
お前は結局自分の気持ちが受け入れられなかったら怖いって逃げているだけだ。何かと言い訳をつけて自分から逃げてるだけなんだよ。
いいじゃねぇか、受け入れてもらえなくたって、失恋したって、好きだって伝えることは何も恥ずかしい事じゃねぇ!」