【完】ボクと風俗嬢と琴の音
走り出した気持ち―――
何故足踏みばかりしていたのだろうか。
少しばかりの勇気が足りずに、それを補うように理由ばかりつけた。
ハルに幸せになってもらいたいから。ハルには自分じゃない、他の誰かお似合いな人がいるから、なんて。
そんな理由ばかりをつけて、自分の気持ちを全く大切に出来ていなかった。
大切に出来ないくせに、こんなただの金属片である鍵さえも捨てきれなくて
忘れようって思う事自体が意識している証拠であるって気づいていたのに、毎夜毎夜考えることと言えばハルの事ばかり。
会いたいんだ。
また同じ景色を見て、同じ時間を過ごし、何でもない事で笑い合って、同じ映画を見て泣いて、同じ漫画を見て笑いたい。
思い返して見れば、そんなありふれた光景ばかり目に浮かんでくる。
こんなわたしが、ハルのような綺麗な人間を好きになる資格はないよ。
それは誰が言った事でもない。自分が自分自身に言い続けてきた言葉であって、誰よりも風俗嬢であった自分を蔑んでいた。
この世界中の誰からもこの想いが否定されようと、わたしだけはわたしの想いを大切にしてあげなきゃいけなかったのに。