【完】ボクと風俗嬢と琴の音
「何で?!」
「昨日の夜洗濯しといたよー。
もう乾いてるっしょ?」
「マジで気が利く!
出来る嫁かよッ」
「そして、お弁当も。ジャーン。
夜中に1回起きて作っておいたんだ」
ハルの手の中には、お弁当箱。いつもハルが使ってる奴で、しかも水筒の中にはお味噌汁まで入っているようだ。
神だよ、あんたは神だ。
気が利くつーか、嫁つーか、とりあえず神であることに違いはない。
それを受け取って…あぁ!携帯も壊れてるんだ。失う物多すぎだよ。
けれども、きっと得た物の方が大きい。だから最新機種の携帯など、さっして問題ではない。いや、困るけどさ。
「じゃあ、あたし、行くよ?!」
「おーい、ちょっと待ってよぉ…」
玄関前で慌てて靴を履くと、ハルが琴音を抱きながら寂しそうな瞳を向ける。
「今日帰ってくるんでしょ?」
帰る?
「だってお弁当箱返してもらえなかったら困るし
俺、明日使うし…
それに帰って来てくれないと、寂しいし…」
こういう時
大きなハルが途端に小さく見える。
でもそんな姿すら愛おしくて。
「でも携帯ショップにも行かないと行けないし…
それに家はあるし…
服とかも持ってこなきゃいけないやん…」
「だって琴子の家はここだろう?」
まだ新居に引っ越して3か月。
せっかく新しく見つけた物件。隣のバンドマンはうっさいし、天窓は気に入っていたけどそこまでロマンチックではなくて
それでも敷金礼金は支払ってしまったし、引っ越ししたばかりなのにまた引っ越し?!
それは更に引っ越し貧乏。というか踏んだり蹴ったり。わたし達は一体何をやっているのやら。