【完】ボクと風俗嬢と琴の音

「退去のお金は俺が出すよ」


「いや、それは…そういうのは困る。何かハルに甘えっぱなしみたいな女で絶対に嫌!」


「でも、俺が琴子と一緒に暮らしたいんだし
琴子がいなかったら寂しいから
今度の土日にさっそく引っ越しの準備をしよう!」



こいつ、こんなに強引な男だっけ?
そしてこんな甘い言葉を吐けるような人間だった?

でも、目の前にいるハルはしょんぼりとした顔をして、こんな寂しそうな顔をしているのは初めて見た。



「ハル、可愛いやん」


「この3か月は本当に寂しかったんだ。
だから1日でも琴子と離れているのなんて耐えられないんだ…」



だからそんな事を言われたら敵わない。
素直な気持ちを口にすると、問題は山積みなような気がしてならないんだけれど
たった3か月の引っ越しの無意味さとか、敷金礼金とか、退去費用とか、せっかく新居を探した労力とかさ。
けれど、そんなんどうでもいい。問題は後から考えればいい。


だってハルと一緒にいたいし、わたしの家は、ハルと琴音が待っていてくれるこの家だと思うから。
だから細かい問題とかは後回しでいい。
わたしだってハルと同じ気持ちなのだ。
少しだけ視線を落とし、子供みたいに拗ねて、唇を尖らせる
それでもわたしの心をときめかせる甘い言葉を吐ける男など、この世界にハルだけなのだろう。


天然で、全然男らしくもなくて、そのくせ身長だけは馬鹿みたいに高い大男。
潔癖症で、主婦みたいで、モデルのような繊細な顔立ちをしてるくせして、どこか頼りない。


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