【完】ボクと風俗嬢と琴の音
でも幸せだな。
すごいふわふわ。ふわふわで、もこもこ。
鼻先が少しくすぐったいけど、さっきと同じ柔軟剤の匂い。
え?!天国ってふわふわしてるものなの?
真っ暗な視界が徐々に開いていくのが分かって
眩しい光りの中、ジッとこちらを見据えるビー玉みたいにまんまるの緑色の瞳。
ビー玉みたいにまんまるの瞳?
バチっと目が合ったら、甲高い声で「にゃーん」と鳴いた。
これは天使ではなく、まさに猫。
茶色いトラで、口元と手足だけが真っ白の、猫。
靴下を履いたみたいに可愛らしい、まだまだ子供の猫。
天使は猫だったの?
いや、ここは天国でもないし、この子は天使でもない。
正真正銘の猫。
「にゃーん?」
と、その子の声真似をしたら
ゴロゴロと喉を鳴らしながら、わたしの頬をぺろぺろと舐めてきた。
頬には涙の痕。
まるで泣かないで、というようにざらざらとした舌で顔を舐めてくる。
「あなたはだぁれ?」
そう言ったら、猫はさっきと同じように甲高い声で「にゃーん」と可愛らしく鳴いた。
正反対で
でもどこか似ている部分もあった。
そんなあなたとの出会いは、どうしようもなかったわたしの人生を少しずつ変えていって
その生活の中に、いつも琴音はいてくれた。
わたしとあなたの間には、必ず琴音がいてくれた。
この何気ない出会いが
人生を変えるような大きな出会いになるなんて
想像もしていなかった。