【完】ボクと風俗嬢と琴の音
あぁ、今日は良い天気だ。
洗濯日和。 そう思ったら、昨日ハルが着ていたティシャツがベランダに干されていて
お日様を浴びながら、風に揺れている。
代わりにテーブルがリビングの真ん中に置かれて
そこには、出来立てホカホカの目玉焼きとウィンナー。こんがり焼けたトースト。
バターとイチゴジャムが添えられている。
「すごいっ。作ったの?」
「すごかないよ。焼いただけ」
「すごいよぉ!!
てゆーか朝ごはん食べるのなんて何年ぶりだろう!!」
大袈裟、そう言ってハルは笑いながら琴音のご飯をお皿に移していた。
「んふぅ~!おいひ~!!ほっぺが落ちちゃいそう~!!」
「だから大袈裟だって」
「本当だよ~!
朝ごはんっていいもんだね!
毎朝作ってるの?!」
「まさか。
会社がある時はフルグラとコーヒーしか飲まないよ。
でも休日は時間があるから、こうやってトーストを焼いたりして少し贅沢ご飯してる」
「うんうん。贅沢だぁー」
大袈裟なんかじゃなくて
本当にほっぺが落ちそうなくらいハルの作ってくれたご飯は美味しくて
思わずトーストをおかわりしたわたしを見て
小さいのによく食べるなぁ、とハルは感心しながら見つめていた。
カリカリと琴音のご飯を食べる音も響いている。
幸せってこういう何気ない事を言うのかもしれない。
でも楽しかった時間はいつか終わりを迎えるもの。
その寂しさときたら
きっとこの家を出たら、他人。
もう会う事もない。
だって元々出会うはずのなかった人だし
人生は別れの連続だし
だから昨日あった事はたまたま偶然。神様の悪戯。
一期一会なんて言葉、好きじゃない。
だからさようなら。
もう会う事もないでしょう。