エリートパイロットの独占欲は新妻限定
突然のプロポーズは驚きとともに
静かな和室に煙が細く立ち上る。
品のある伽羅の香りが漂う中、三杉由宇は遺影に向かって静かに手を合わせる男の背中を見つめていた。
父、和幸の葬儀を終えたのは一週間前。病に倒れてから一年の闘病の末、五十二歳の若さでこの世を去ってしまった。
覚悟をしていたとはいえ父親とはふたりきりの家族。祖父母は亡くなり、和幸には兄弟もいないため、由宇は二十二歳にしてひとりぼっちとなった。
大学の卒業式は和幸が亡くなる、わずか三日前。卒業証書を見せられたのはせめてもの救いだ。
焼香を済ませた男が座ったままゆっくりと由宇へ体を向ける。
クセのない黒髪がさらりと揺れ、意思の強そうな真っすぐな瞳が由宇を見た。
真島智也、三十二歳。すっと通った鼻筋も形のいい唇も、容姿端麗という形容がなによりも適している男だ。そこに国際線パイロットの肩書までつくのだから、女性たちの憧れの存在だと由宇にも想像がつく。きっと素敵な恋人もいるだろう。
和幸の後輩だった彼は、葬儀が終わった後もこうしてちょくちょく焼香をしに訪れていた。
「どう? 少しは気持ちも落ち着いてきた?」
「どうなんでしょう……。父がもういないんだっていう実感がなくて。まだ入院していて、病院に行けば会えるような気がするんです」
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