エリートパイロットの独占欲は新妻限定
佐奈はまるで悪だくみでもするような顔をした。胸の前で腕を組み、目を糸のように細くする。
「そっ、それはカッコイイんだもん、見とれても仕方ないでしょう? だからって好きってわけじゃないから」
テレビでイケメン俳優を見るのと同じ。手の届かない人への羨望の眼差しだ。恋とは程遠い憧れ。
佐奈は目を細めたまま、再びテーブルに身を乗りだした。やっぱり悪だくみをしている顔にしか見えない。
「その見とれちゃう相手からプロポーズされたんだよ? 断る理由はないでしょ」
それならちゃんとある。ふたりの間に、結婚の必須条件である愛情がないからだ。
結婚がそう簡単にうまくいくものでないのは両親の例を見ればわかる。それなのに絶対的に必要な愛がそこにないのだから、最初から破綻しているも同じ。
「ともかく、そんないい話を蹴ったりしたらだめだからね! ……っと時間だから行かなきゃ」
飲みかけていたコーヒーのカップを一気に飲み干し、佐奈は釘を刺してから「またね」と身を翻した。これから男友達とデートだそうだ。