エリートパイロットの独占欲は新妻限定
ドアを開けた途端ふわっと抱きしめられ、シトラス系の爽やかな香りに包まれる。ハッとして反射的にその胸を手で押し返した。
ただいまって……! しかも呼び捨て!
呼び捨ては二度目とはいえ、いきなり過ぎてどう対応したらいいのかわからない。顔ばかりか体の温度が二~三度上昇した気がした。
智也がクスッと笑う。由宇がそんな反応でも余裕の感じだ。
「お、おかえりなさい」
ぐらついた足を急いで立て直し、いわゆる〝気をつけ〟の姿勢で両手を脇にそろえた。
ただ、〝おかえりなさい〟が正しいのかは微妙なところ。だってここは智也の家ではないのだから。かといってほかに言葉は見つからない。
キョロキョロと目を泳がせながら視線を徐々に下げていく。
智也はざっくりとしたオフホワイトのニットにベージュのチノパンを着て、テイラードのジャケットを羽織っていた。どちらかといえばカジュアルだ。
「仕事帰りじゃなかったんですね」
一度自宅に寄ってからここへ来たのかもしれない。