エリートパイロットの独占欲は新妻限定
深く頭を下げられ、由宇も下げ返す。持参したクッキーの手土産を渡すと、女性は「お気を使わせて申し訳ありません」と恐縮した。
和幸の荷物を受け取って帰るだけかと思っていたが、その女性は由宇をオフィス内へ案内すると言う。せっかくの誘いを断るわけにもいかず、その背中を追った。
メインスペースとなっているワークデスクエリアはパーティションなどの仕切りがなく、見晴らしがとてもいい。由宇が足を踏み入れた隅からでも、一番奥のスペースを視認できるほど。リニューアルしたのか、由宇が子どものときに来たときとは印象が違い、さらに機能的なオフィスという感じだ。
もしかしたら智也もいるかもしれないと思って姿を探してみたが見つけられなかった。
「由宇ちゃんじゃないか」
そう声をかけてきたのは和幸の同期のパイロットだった。制服の袖口には四本のゴールドラインがある。彼も機長だ。これからフライトなのか、若手のパイロットをうしろに従えている。
「父の葬儀のときにはいろいろとありがとうございました。生前も大変お世話になりまして……」
「三杉がいなくなったのが未だに信じられないんだよね。本当に残念だ」