エリートパイロットの独占欲は新妻限定
壁伝いに手を突きながら行ったリビングにも智也の姿はない。
「智也さーん」
かすれた声で呼んだが返事もなかった。
ふとダイニングテーブルの上に小さな紙切れがあるのを見つける。手にしてみるとそれは智也の置き手紙だった。
〝仕事に行ってくる。由宇はゆっくり休んで〟
一気に目が覚める思いだった。
「うわぁ、やっちゃった……」
壁掛け時計を見ると、時刻はすでに十一時過ぎ。寝坊もいいところだ。
昨夜は仮にもふたりにとっての初夜。泥酔して夫に運ばせたうえ、大事な大事なふたりの初めての夜をすっぽかしてしまった。そのうえ寝過ごして朝食を作らないどころか、お見送りもしなかったとは。
……はぁ、ダメダメだ。
深いため息が漏れる。初日から妻失格の自分にガッカリだった。