君にひとつ、質問があります。
するりと先ほどまで本を読んでいた彼は組んでいた足を解いて立ち上がった。私は見ていたのがバレないようにぱっとテーブルに立てていた本へ視線を移す。
本に隠れるように身を小さくして。
と、何やら近くで聞こえる「あの」という男の子の声。誰かが呼ばれているななんて他人事で、その声を聞き逃していればするり私を隠していた目の前の本が姿を消した。
あれ?
本の代わりに瞳に映ったのは、先ほどまで盗み見していた綺麗な顔。上手く言葉を音にすることができなくて開いた口が塞がらない。
「あの、山吹 藍さん」
「え、あ、え、はい!」
目の前の彼の顔に思わず身を仰け反らせ、彼が私の名前をフルネームで呼ぶものだから思わず間抜けな声を上げてしまった。
今の一瞬で、絶対に変な奴だと思われたに違いない。どうしてもっと可愛い反応ができないんだ私は。
「え、あの、え、萩瀬……蓮さん」
「はい、萩瀬です」
テンパった頭でよく分からず、彼の名前を口にすれば本人から答え合わせのように自己紹介をされた。
低めの低音ボイスにずっと聞いていられるななんて些か変態ちっくな思考を巡らせ、思わず自分でも本人を前にして少しの反省。