君にひとつ、質問があります。
「あの、」
「なんですか?」
「……どうして私のことなど知っているのですか?」
遠慮がちに問いかけ“ストーカーの顔と名前くらい覚えてるよ!”その台詞を覚悟をしながら待つ。
身を隠していた本を取り上げられ手持ち無沙汰な両手は行き場をなくし、ぎゅっと拳を作ったまま自分の太腿の上で待機させた。
正面から注がれる視線に思わず恥ずかしさが込み上げてくる。
そんなに見つめないでいただきたい。と、毎日、隠れて見ていた自分がなにを言っているんだというツッコミで自らを落ち着けようと試みるが効果はいまひとつ。
ちらほらと周りには図書室を利用する生徒の姿があるのにまるでこの場所だけ、切り取られた異空間のように感じた。
彼と私の、ふたりぼっち。
沈黙が酸素を薄くする。彼はゆるりと柔らかく微笑んだ。その笑みはいったいなんなんだと息苦しいこの場所で、じっと視線をただただ注ぐ。
「知ってるに決まってるじゃないですか」
「……」
「だっていつもこの席に座ってますよね」
ああ、本当に私のキャンパスライフは今日で終わった。
「……はい、すみません」
弱々しく呟けば「どうして謝るの?」なんて、あっけらかんとした表情で言われ、もはや罠なのではないかと思う。