君にひとつ、質問があります。
そこまで書ききって「出来た」と言葉を溢した彼はノートを私へと向けた。綺麗な筆跡で羅列した異国の言葉達。
私にノートを見せて、くすりと微笑む萩瀬くん。嬉しそうに片肘をテーブルにつき拳の上に顔を乗せる。反対の指先でノートをとんとんと叩いた。
いったい、なんの遊びなのだろう。
彼のその細いけれど少し骨ばった指先がノートの上を艶やかに滑る。先ほど書かれた文字を撫ぜるように。
「はい、では問題です」
「……はい」
「僕がいま書いた言葉を全て日本語に訳してください」
彼の指先が滑ったノートへ視線を落とす。
なぜこの言葉のチョイスなのか。勘違いしそうになる。私が言われているわけではないのに、こんなのずるい。
どくどく、どくどく加速する胸の音が今にも彼に聞こえてしまうのではないかと、ぎゅっと胸元を抑えた。