ホントの魔法は意外と地味だ
「私たち魔法や魔術の授業を受けているのよね。何か違うような気がする。」
講義室を出るとダイアナが言った。
「でもまだ基本の段階だから何とも言えないかな。」
エリザベスはそう答えた。
「リズはいいよ、魔法使いの家系で子供の頃から魔法も魔術も身近なものだったんだから。私なんか日本で文武両道を勉強しなさいって言われてるみたい。」
「それでいいじゃない。文が魔法で武が魔術。でも私だってまだ半信半疑な部分があるよ。実際に 魔法も魔術も見たことがない。それに記録だって残ってないし。」
「でもエリザベスの家には文字がなかった頃の 魔法や魔術の話が語り継がれているでしょ。」
魔法とは魔の法則であり、魔術とはその法則を使いこなす術である。そしてこれを研究する学問が魔法学。
しかしこの学問はなかなか進歩しない。この世界で魔が発動しないからである。魔が発動するのは魔界だけであり、魔界に通じる扉は非常に少ない。
エリザベスとダイアナは行きつけのカフェに入ると窓際の席に座った。二人は遠目に見ても日本人ではないと分かるのだが、会話だけを聞いたら誰もが日本人と勘違いするくらいの流暢な日本語だ。事実彼女達の横を通る際、あまりにも流暢な日本語に逆に驚いて視線を向ける客もいる。
「 リズ、パスポートはもう用意したの。」
「そうか、パスポートいるんだ。横浜はアメリカの管轄だもんね。」
二人は週末に横浜アリーナで開演するマジカル8のコンサートに行く予定だ。
国内を移動するのにパスポートが必要なのは大震災に見舞われた日本が復興中で、4カ国が支援の枢軸となっているからだ。その区分けは北海道をロシア、東北・関東・東海をアメリカ合衆国、北陸・近畿・四国を中華人民共和国、エリザベスとダイアナの母国イギリスは中国地方と九州を管轄している。
二人は現在、宮崎県宮崎市にある枸橘女学館文学部史学科に留学中。つまり九州管轄区にいるのでパスポートが必要となる訳である。
エリザベスとダイアナは 今日の講義内容の話を続けていた。
「 魔法論の講義も実際に魔法を使うってことからかけ離れているわね。 仮説ばかり。」
ダイアナは相変わらず期待外れといった表情をしている。
「応用魔術の講義は三年生からだけど、本当に空を飛ぶ魔法とかあるのかな。」
エリザベスは高度な魔術に話を振った。
「どうなんだろうね。〈今、魔法学は空に憧れた人たちが空を飛ぼうとした飛行機のない時代〉みたいなものだって先生言ってたし。」
「 ほうきに乗って屋上から跳んだらそのままドスンんかな。 悲惨な姿が動画で拡散されそうだわ。」
「 閲覧回数は 一気に上がりそう。でも大型のドラゴンが空を飛んでたらもの凄い光景だね。」
「 羽ばたいたら風が凄いし、それより翼の骨格は空気抵抗に耐えられるのかな。 台風の日に傘を開いた状態よ。」
「リズ、あまり真剣に考えちゃだめ。普通の人が考える魔法ってマジカル8のステージや映画みたいなものでしょ。」
一般学生向けの魔法系講義を現実だと思って受講する学生はまずいない。ほとんどの受講生はある程度つじつまの合った創作の延長線上だと捉えている。
それは魔法の存在が証明されていなく認知されていないからだ。魔の法則が存在して、それが発動する世界があるということを前提に授業を受けているのはイギリスから留学した数人の学生だけである。 留学生が受ける講義は表向き魔を発動させ使いこなす術ではなく、 スコットランドやウェールズの地方に残る伝説・伝承として扱われている。
イギリスが島となり人類が住み始めた頃はこの世界でも魔が発動したらしい。まだ人類は文字を持たず今となっては証明できないが、ストーンヘンジがその痕跡だと言う説もある。
文明が発達すると魔法は伝説となり非科学的なものとして位置づけられるようになった。人間の生活を豊かにするのは魔法ではなく、科学的な裏付けのある文明だった 。国王の身辺からは魔法使い・魔術師・魔導師と呼ばれる人物が居なくなり、いつしか魔法は政事からも切り離されていった。産業革命を真っ先に起こしたのもイギリスである。
それでもイギリス政府は秘密裏に魔法省を存続させた。現在、表向きの諜報機関はMI5とMI6ということになっているが魔法省の正式呼称 は MI5.5である。
「古流空手も魔法と関係あるのかしら。大学生になってからの型稽古は体育会系の空手部よりハードよ。」
ダイアナがもう勘弁してと言った表情で言う。
「 そうね、日本に来たから日本文化の保存って訳でもなさそうだし。」
エリザベスは視線を落とし軽く流した。
「 ごめんリズ、お姉様のこと思い出させちゃったわね。」
「 気にしなくていいよ。私も魔法と空手の関連性を考える時にはいつも姉とボブの事を思い浮かべているから。 姉のことは避けて通れないし、それにボブは夏休みの魔術実習の講師でしょ。」
「そうなんだ、情報早いわね。最強と言われた警護団団長が先生なんだ。 それでボブって厳しいの。」
「 対魔術師を想定した型稽古だからできるまで させられるわよ。」
「でもこの世界だと魔は発動しないのよね。」
講義室を出るとダイアナが言った。
「でもまだ基本の段階だから何とも言えないかな。」
エリザベスはそう答えた。
「リズはいいよ、魔法使いの家系で子供の頃から魔法も魔術も身近なものだったんだから。私なんか日本で文武両道を勉強しなさいって言われてるみたい。」
「それでいいじゃない。文が魔法で武が魔術。でも私だってまだ半信半疑な部分があるよ。実際に 魔法も魔術も見たことがない。それに記録だって残ってないし。」
「でもエリザベスの家には文字がなかった頃の 魔法や魔術の話が語り継がれているでしょ。」
魔法とは魔の法則であり、魔術とはその法則を使いこなす術である。そしてこれを研究する学問が魔法学。
しかしこの学問はなかなか進歩しない。この世界で魔が発動しないからである。魔が発動するのは魔界だけであり、魔界に通じる扉は非常に少ない。
エリザベスとダイアナは行きつけのカフェに入ると窓際の席に座った。二人は遠目に見ても日本人ではないと分かるのだが、会話だけを聞いたら誰もが日本人と勘違いするくらいの流暢な日本語だ。事実彼女達の横を通る際、あまりにも流暢な日本語に逆に驚いて視線を向ける客もいる。
「 リズ、パスポートはもう用意したの。」
「そうか、パスポートいるんだ。横浜はアメリカの管轄だもんね。」
二人は週末に横浜アリーナで開演するマジカル8のコンサートに行く予定だ。
国内を移動するのにパスポートが必要なのは大震災に見舞われた日本が復興中で、4カ国が支援の枢軸となっているからだ。その区分けは北海道をロシア、東北・関東・東海をアメリカ合衆国、北陸・近畿・四国を中華人民共和国、エリザベスとダイアナの母国イギリスは中国地方と九州を管轄している。
二人は現在、宮崎県宮崎市にある枸橘女学館文学部史学科に留学中。つまり九州管轄区にいるのでパスポートが必要となる訳である。
エリザベスとダイアナは 今日の講義内容の話を続けていた。
「 魔法論の講義も実際に魔法を使うってことからかけ離れているわね。 仮説ばかり。」
ダイアナは相変わらず期待外れといった表情をしている。
「応用魔術の講義は三年生からだけど、本当に空を飛ぶ魔法とかあるのかな。」
エリザベスは高度な魔術に話を振った。
「どうなんだろうね。〈今、魔法学は空に憧れた人たちが空を飛ぼうとした飛行機のない時代〉みたいなものだって先生言ってたし。」
「 ほうきに乗って屋上から跳んだらそのままドスンんかな。 悲惨な姿が動画で拡散されそうだわ。」
「 閲覧回数は 一気に上がりそう。でも大型のドラゴンが空を飛んでたらもの凄い光景だね。」
「 羽ばたいたら風が凄いし、それより翼の骨格は空気抵抗に耐えられるのかな。 台風の日に傘を開いた状態よ。」
「リズ、あまり真剣に考えちゃだめ。普通の人が考える魔法ってマジカル8のステージや映画みたいなものでしょ。」
一般学生向けの魔法系講義を現実だと思って受講する学生はまずいない。ほとんどの受講生はある程度つじつまの合った創作の延長線上だと捉えている。
それは魔法の存在が証明されていなく認知されていないからだ。魔の法則が存在して、それが発動する世界があるということを前提に授業を受けているのはイギリスから留学した数人の学生だけである。 留学生が受ける講義は表向き魔を発動させ使いこなす術ではなく、 スコットランドやウェールズの地方に残る伝説・伝承として扱われている。
イギリスが島となり人類が住み始めた頃はこの世界でも魔が発動したらしい。まだ人類は文字を持たず今となっては証明できないが、ストーンヘンジがその痕跡だと言う説もある。
文明が発達すると魔法は伝説となり非科学的なものとして位置づけられるようになった。人間の生活を豊かにするのは魔法ではなく、科学的な裏付けのある文明だった 。国王の身辺からは魔法使い・魔術師・魔導師と呼ばれる人物が居なくなり、いつしか魔法は政事からも切り離されていった。産業革命を真っ先に起こしたのもイギリスである。
それでもイギリス政府は秘密裏に魔法省を存続させた。現在、表向きの諜報機関はMI5とMI6ということになっているが魔法省の正式呼称 は MI5.5である。
「古流空手も魔法と関係あるのかしら。大学生になってからの型稽古は体育会系の空手部よりハードよ。」
ダイアナがもう勘弁してと言った表情で言う。
「 そうね、日本に来たから日本文化の保存って訳でもなさそうだし。」
エリザベスは視線を落とし軽く流した。
「 ごめんリズ、お姉様のこと思い出させちゃったわね。」
「 気にしなくていいよ。私も魔法と空手の関連性を考える時にはいつも姉とボブの事を思い浮かべているから。 姉のことは避けて通れないし、それにボブは夏休みの魔術実習の講師でしょ。」
「そうなんだ、情報早いわね。最強と言われた警護団団長が先生なんだ。 それでボブって厳しいの。」
「 対魔術師を想定した型稽古だからできるまで させられるわよ。」
「でもこの世界だと魔は発動しないのよね。」
< 1 / 4 >