ホントの魔法は意外と地味だ
 カフェの大型モニターにはマジカル8のコンサートが映し出されている。このグループのコンセプトは〈魔法であなたを幸せにする〉である。
 もちろん、この世界では魔が発動しないので魔法は使えない。いわゆる娯楽としての1ジャンルのエンターテイメント・マジックでファンはエンタマと呼んでいる。
 現在の日本ではどの管轄区でもエンタマが大人気で各都道府県に1グループは必ずある。 活動内容は微妙に違うが復興のイベントに参加して盛り上げる役割を担っている。そのエンタマ界の頂点に位置するのがマジカル8だ。
 マジカル8とファンの交流は基本的に二つに分けられ、一方は通常のコンサートや新曲・写真集発売のイベント会場へ出向く一般的なもの。もう一方は購入したグッズのポイントを貯めると参加できる交流会だ。
 交流会の特典は購入額に比例している。購入額上位の8名はVIPと呼ばれ 、交流会当日に会場のボックスシートで自分の好みのメンバーと30分間デートができる仕組みになっている。このボックスシートに座るにはどれくらいの購入が必要かといえば、ほぼ国産高級車と同等の金額だ。このため交流会のことを汚い商売だと罵る者がいても、マジカル8はグッズの売上額の大半を復興のための資金として寄付しているために表立ってこの商法をとがめる者はいない。

 このボックスシートに時折女性が座ることがある。ボックスシートに座る女性の目的はマジカル8のオーディションを受け主要メンバーに引き上げてもらうことで ことが目的だ。
 マジカル8は主要メンバー8名以外にフィールド・メンバーと呼ばれる数百名の予備人員がいる。そのためオーディションに合格して多数のファンを獲得するより上位メンバーに可愛がってもらいパートナーとして引き上げてもらう方がはるかに有利なる。
 フィールドには人気の順にファースト10名、セカンド15名、サード15名の枠がある。オーディション合格者の中には上位メンバーに引っ張られサードとセカンドを飛び越えいきなりファーストに挙がる者もいる。

 モニターはMCの場面になった。マジカル8のナンバー2の大原千鶴(ちづる)が話し始めた。
「 私とゆーゆーこと後田(うしろだ)優美(ゆみ)は近々本当の魔界に行きます。そこで少しでもいいから本当の魔法を体験して皆さんを幸せにするために役立てたいです。」
「チーちゃん、よろしく頼むね。」
 優美がそう言うと、千鶴は
「任せてください。いぶし銀のチーが不動のリーダーをしっかりお守りします。」
と答えた。千鶴はオーディションに合格すると直ぐに優美に歌とダンスの才能を見込まれ、先輩たちを飛び越えてナンバー2まで一気に上り詰めたのであった。

「おいおいマジで言ってんのか、あの子。」
 リチャードの声が少しうわずってカン高くなってる。ダイアナは少し呆れた表情をして画面を見ながら話し始めた。
「本当の魔界ってどこに行けばあるって言うの。宮崎が2箇所、後は出雲くらい。それで場所が一番はっきりしてるのは岩戸しかないじゃない。 扉だっていつ開くかわかったもんじゃないわ。そんなに都合よく開くのかしら。」
 〈ステージでワイヤーを使って飛び回ったり、発売時はCGで加工するあなたたちのソフトとは違うの 〉ダイアナはそう言いたげだ。
「 あれぇ、二人ともマジカル8のファンだよねぇ。」
 ムキになって喋っていたダイアナを見たリチャードはおかしくて仕方がないようだ。
「そうよぉ、ファンだよぉ。」
 ダイアナはマジカル8優美の発言よりもリチャードの言い方が気に入らないみたいだ。
「エリーはどう思う。」
 リチャードはエリザベスに質問を振った 。
「素人さんの魔界探検、本当に行くのかな。本当に行くんだったらやめた方がいい。スタジオにセット作って〈頑張ったね〉みたいな感じじゃないの。」
 エリザベスの理路整然とした答えにリチャードは納得した様子だ。
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