【完】君に惚れた僕の負け。
0.君に惚れた僕の負け
「泣きそうな顔して、どーした?」
聞きなれた声にあたしは顔を上げる。
きらきらと後光がさして見えた。ほんとに見えた。
つぼみが開き始めた薄紅の桜並木。
卒業証書を片手に持ち、中学の制服に“祝卒業”の胸章をつけた彼はフッと笑った。
途方もない心細さを抱えた今、彼の存在は心強くてしかたないんだ。
「朱里くん……」
藁にもすがる思いで、中学三年間着尽くしただろう学ランに手を伸ばす。
「お願いがあるの……! パパを説得して……!」
朱里くんを見上げて懇願していると、コツンと頭を叩かれた。
「……高いよ?」
あたしを助けてあげる、そういう声色。
うん……なんでも差し出す……。って思った。
【君に惚れた僕の負け】