【完】君に惚れた僕の負け。
着替えの服をクローゼットから取り出して朱里くんに手渡しながら、あくまでさりげなくを装って聞いた。
「はぁ、なんで?」
「その受験生の冬、風邪で朦朧とした朱里くんに“チャコ”って呼ばれたと思ったんだけど、もしかして亜瑚だったんじゃないかって」
「なわけねーじゃん。亜瑚とは中3になってから知り合った。チャコも知らねーし」
風邪で弱った声が、頭から被った服越しに聞こえる。
「亜瑚もチャコも知らないって、ちょっと怖いんだけど」
冷えピタを張り直す。
「なんで怖いの?」
薄掛けの布団をかける手が止まる。
「だって……」
じゃあ、朱里くん、誰にキスしたの?って話になるでしょ?
幻覚とか、見えてたのかな……。頭完全に熱にやられてたの?それとも幽霊?
ぞくぞくぞく。
今回も高熱だけど大丈夫かな……?