【完】君に惚れた僕の負け。
朱里くんは、こういうこと亜瑚ちゃんにもするのかな。
一瞬そう思ったらすごく嫌だって思った。
ーー『なんで拒まないの』
わかんない。わかんないよ。
だって嫌じゃないから。
優しく触れられていたいって気持ちがあるから。
それだけしかわからない。
朱里くんの背中が遠くなる。
待って、行かないで。
手を伸ばしかけたとき、朱里くんがこっちに振り返ったから、さっと手を引っ込めた。
「……帰り、はしゃぎすぎてあんま遅くなんなよ」
あたしの頭に伸ばされた大きな手。
それから、なんとも暖かい目を細めて。
ぽんぽん、って頭を叩いて、家を出て行った。
「行ってきます」