【完】君に惚れた僕の負け。
「だって、昔はあたしがいなきゃ何もできなかったのに」
朱里くんはしばらく絶句してから、やっとという様子で声を出す。
「……そんなのこっちは全く思い当たらないんだけど。例えば俺が恋々に何して貰ったわけ?」
なんでちょっと怒ってるの?
例えば……そうだなぁ。
今まで思い出すたび、自分の勇士にニヤけてきた輝かしい思い出を、ここはひとつ。
「小さいころ初めて二人で公園に行った日、帰り道で迷ったでしょ?結局あたしが先導して無事に帰れたんじゃーんっ」
おっと、思った以上に得意げな声になっちゃった。
「あー、あったかも。ほかは?」
それを朱里くんに、さっと流されて。
「ほかは……」
16歳から記憶を遡る。
ほかには……。
「ないんだろ?」
「……う」
「その一回だけでよくそこまで自分を過大評価できるな。尊敬するわ」
なんて口が達者なんだろう。