【完】君に惚れた僕の負け。
いつの間にかおじさんの手は止まっていて、その目はリビングで煌々と光るテレビに向いている。


おい、おっさん。早くその釘打てよ?


『おじさん、どうしたの?手止まってるけど、疲れちゃった?』


『あぁごめん。ほらテレビの柔道、すごいだろ。恋々があの柔道の選手みたいに強かったら独り暮らしさせてもいいけどなーなんて。あはは』


『あはは……』



愛想笑いしながら、考えが頭を駆け巡る。


じゃあ恋々が料理と家事をこなせるようになって、それからあの選手みたいに強い人になれば海外に行かなくてもいいっこと?



でもそれって恋々には無理だよね。あいつはポンコツだから。



もうこの段階で俺の口元には深い笑みが浮かんでいる。



――だったら、俺が代わりに全部できるようになるよ。



それで、一緒にすめばいいじゃん、俺と恋々の二人で。



俺はのほほんと釘を打つ悪魔に目を向けて誓う。



……ぜったいに恋々だけは連れて行かせねーからな。



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