【完】君に惚れた僕の負け。
「とにかく、もっとまともなの着ろよ」
べしっとスマホを返した。
……なんだその尖った唇。
不服そうな顔に問う。
「わかった?」
「……うん」
ぜったいに言うこと聞けよ。
◇
そうは思ったものの、文化祭当日の今、本当に着なかったかどうか気になって仕方なくて。
開店したての午前10時。
自分の教室を抜け出して、恋々のクラスに向かった。
まともに歩けないほど、狭い廊下は人であふれている。
「あれ?朱里くんじゃん」
やっほーっとへらへら手を振るのは、囚人服を着た“ふうちゃん”。
こいつに聞くのはシャクだけど。
「……恋々いますか?」
「恋々は今客引き中」
「……え」
客引きって、嫌な予感しかしないんだけど。
「恋々ちゃんすごいよ~。今日だけお色気担当で男の客がっぽり」
お色……。
「死んでもらえますか。恋々は?どこ?」
「ちょ、冗談だってー!怖いなぁ。あ、恋々だ」
その視線を追って振り返った瞬間、呆れを通り越した。
「……あのバカ」
着てんじゃん、デビルじゃん。
なんなの?
なんで言うこと聞かないの。