【完】君に惚れた僕の負け。
なに……それ。


まるで、ありえない話を仮定するみたいな口ぶり。



朱里くんの唇は、意地悪に弧を描いた、いつも通りの【からかい】の顔で……。



なんだ……朱里くん、あたしのこと好きなわけじゃないじゃん。



むしろ、そんなことは絶対にありえないんだって前提で話してるよね?



「……」



声、出ない。


でも今すごく泣きそうだから、笑わなきゃって思って口角あげてみたんだけど。


うまくできなくて、俯いて下唇を強く噛んだ。


「恋々?」


いつもの調子で顔覗き込もうとするんでしょ。



……いつもと変わんない朱里くんが、こんなに嫌だ。




――バシ。

着ていたエプロンを押しつけて、あたしは自分の部屋に飛び込んだ。





ーー360度どこからみても恋々に惚れてるよ。



なんで朱里くんを知ったばかりの3人の言葉を信じて、舞い上がっちゃったんだろう。


朱里くんと16年も一緒にいるあたしが”家族愛”って感じるなら、そっちが正解に決まってるのに。


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