【完】君に惚れた僕の負け。
とっさに停車中の車の影に隠れて、顔だけをだして覗くと、


「亜瑚。冷静になれよ」


「冷静だもん……!」


腕を振りほどこうとしながら朱里くんを見上げる女の子。


腰までありそうなナチュラルブラウンのウェーブの髪が、風になびいて、大きな目から涙がこぼれていく。


ーー亜瑚。


……それって、


朱里くんの元カノの名前だ。



「手、放してよ……!」


「放すわけねーだろ」



朱里くんはどうしてそんなに切なそうに、彼女を見ているんだろう。



……そんな顔、まるであの子のことをーー。



指先から力が抜けていく。



――ガシャン……。



コンクリートに落としてしまった袋の中で、割れた卵が黄色く広がっていく。


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