【完】君に惚れた僕の負け。


空っぽの家に帰ってもう1時間は経っているけど朱里くんはまだ帰ってこない。


いま何してるんだろう。



「はぁ……」



朱里くんに好きな人がいるって、知ってたはずなのにな。


どこか実感がなくて、全然わかってなかった。




だけどもう、朱里くんの好きな人の姿も、朱里くんが向けていたあの表情も、生々しく瞼の裏に焼き付いている。



思い出すだけで胸が苦しい。



「ただいま」



玄関から声がして、あわてて涙だらけの顔をごしごしと拭った。



「おかえり……」


「声、暗。って何、この割れた卵は?」


「あ、それは……落としちゃって」



「ドジかよ」




笑いながらそんなめんどくさいものを片づけ始める朱里くん。



……なんで上機嫌なの。




亜瑚ちゃんとうまくいったから?



別れさせてあげるって、そう言った通りのことを成し遂げられたから?


だから、機嫌がいいの?



亜瑚ちゃんと朱里くんが並ぶ映像が鮮やかに頭に浮かんでくる。



誰かを想う朱里くんなんて嫌だ……。



ぷくっと涙が浮かび上がっていく。



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