【完】君に惚れた僕の負け。
テーブルの上のあたしのスマホが震えた。
「あ。ママから電話だ」
向こうはまだ朝なのに、なんだろう?
「早く出なよ」
そう言いながらリモコンを手繰り寄せた朱里くんがテレビの音を下げた。
「もしもし?」
小さくなったテレビから笑い声が聞こえる。
電話の向こうから耳を疑いたくなるような言葉も、次々に入ってくる。
「……え?」
うそだよね?
ママの真面目な声が続いている。
あたしの手のひらから、スマホがすり抜けて、床に落ちた。
「どうした?」
朱里くんの声が聞こえる。
でもママの言葉で頭を埋め尽くされたあたしは声も出ない……。
眉根を寄せて、スマホを拾い上げた朱里くんは自分の耳に当てた。
「もしもし、朱里です。こんにちは」
二人の会話が進んでいく。
朱里くんはきっとあたしと同じ話をされているんだろう。
――『っていうわけで、3日後のフライトでパパと一緒に日本に帰るわね!』