【完】君に惚れた僕の負け。
「これ忘れてたから持ってきたよ。どっちが朱里くんの?」



ふたつのお弁当を見せると、「俺のはこっち」とひとつ受け取った朱里くん。


「さんきゅ」


「いえいえ。忘れんぼだなぁ」



「だって忘れれば持ってきてくれるだろ?」




ん?
なにその、わざと忘れたような言い方は……?


いや、勘違いかな。さすがに朱里くんだってそんなことしないよね。


「行こうぜ」


なぜか朱里くんはあたしにそう言って廊下を歩き始めた。


「行くって?どこへ?」



「弁当。屋上で食べよ」



「一緒に?」



「うん」



「だけどあたし、友達と食べる約束だから。お茶買ってきてって頼まれてて……」



「はぁ?」



どす黒い声にどきっとした。



「まさかお茶頼んできたのって、“ふうちゃん”?」



足を止めて、ちらりとこっちを見る横顔が怖すぎる。



「ううん。ふうちゃんじゃなくて池田くんに頼まれたんだよ」


「ちっ。また新しいの来た……」



今この人舌打ちしなかった?


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