人形魔王は聖女の保護者

メデュノアの体

 街での騒動を乗り切り、メデュノア一行は魔王城へとたどり着いた。
 長い道のりではあったのだが、セドリックが馬車を用意したりとセドリックが世話をしたため快適であった。
 この世界に慣れていないめぐみには、それでも精一杯ではあったけれど……。

「すごい。これがノアのお城なんだ……」
『ああ』

 セレイツが住んでいた城にもまったく劣らない豪華な建物が、そこにあった。いた、敷地面積だけを考えるのであれば、倍くらいはあるかもしれない。
 セピアを基調としたシックな造りのお城で、城内ではたくさんの人が働いている。ノストファティアの静かな王城とは違い、かなりの活気があるとめぐみは感じた。

「私は先に準備してきますから、城内を案内されてみてはいかがですか?」
『そうだな』

 のほほんと笑って、セドリックは立ち去ろうとする――が、「あ」と声を漏らす。
 どうしたのだろうとめぐみが首を傾げれば、メデュノアも『あ』と声を漏らした。

「え? どうかしたの……?」
『俺がこの姿じゃ、城の奴が不振に思うだろ』
「あ!」

 確かにそうだと、めぐみは納得する。
 しかしどうやれば、メデュノアは元の姿に戻れるのだろうか。人形にしてしまった犯人はめぐみであるが、戻し方は把握していないのだ。
 どうしようと焦るめぐみだが、メデュノアとセドリックは至って平然としていた。「一番先決はメデュノアの体かなぁ」とセドリックが言う。

「でも、そのうさちゃん姿も好きなんですけどねぇ」
『阿呆。はやくつれていけ、お前が一緒じゃないと無理だろ』
「わかりましたよ。めぐみさんも、ついてきてください。部屋は後で手配しますから」
「? はい、わかりました」

 いまいち何のことか分からないめぐみは、歩き出したセドリックの後ろを大人しく着いていく。
 焦げ茶色の絨毯が敷かれている城内は、とても綺麗だった。壁には絵画などが飾られて、花もたくさん生けてある。
 セドリックが歩いていくと、城の中で働いているメイドたちが両端により頭を下げる。それを見て、めぐみは自分が場違いだと焦ってしまう。
 本当に、一緒にきてもよかったのだろうか。確かにメデュノアをうさちゃんにしてしまった犯人ではあるのだが、ここまで助ける義理はないはずなのに。

 ――魔族の人は、皆優しいなぁ。
 少し気持ちがほっこりするなと思っていれば、どうやら目的地へとたどり着いた。
 ひときわ豪華な扉があって、その前には門を守る騎士が三人見張りとして立つ。あまりにも厳重な警備に内心驚くが、めぐみがのんきに口をはさめるような状況でもない。

「――どうぞ」
「ありがとう」

 セドリックはすんなりと中にはいり、私も慌てて後に続く。
 とても豪華な部屋は、落ち着いたダークブラウンで統一されていた。誰かの部屋だろうなと考えて、しかしすぐにめぐみはここがメデュノアの部屋ではないかということに思い当たる。

「セドリックさん、ここってもしかして……」
「そう。ここはメデュノアの部屋ですよ」
『ああ。まぁ、外に出てることの方が多いけどな』

 すんなり肯定の返事が帰ってきて、しかしどうしてここへきたのだろうかと首を傾げる。

「めぐみさん、こっちですよ」
「?」

 部屋の中をきょろりと見渡していれば、セドリックさんに「ここではないですよ」と手招きをされる。さらに首を傾げれば、奥にある扉を指差される。
 部屋の中にベッドがないから、寝室だろうか。

『めぐみ、こっちだ』
「う、うん」

 うさちゃん人形のメデュノアが、めぐみの服の裾を引っぱりくるように促した。
 その動作が可愛くて叫びたい衝動に駆られたりしてしまったが、冷静さを心がけてめぐみもついていく。

 セドリックが開けてくれた扉から中に入ると、そこはやはり想像通りの寝室だった。

「えと、いったいどういう――!?」

 ここで何をするのだろうかと問おうとして、しかしめぐみは驚き息を飲んだ。
 ベッドでは、人型のメデュノアが眠っていたからだ。思わずうさちゃん人形のメデュノアを見るが、やはり正常に動いている。

「ど、どういうこと?」
『言っただろ、俺は召喚されたって。魂だけが、この人形に入れられた状態が今だ』
「……! ノアの体は、大丈夫なの!?」

 白銀の髪をベッドに散らして、その瞳は閉じられている。
 めぐみのうさちゃん人形に意識が入ってしまっていて、体の方は無事なのだろうか。それがめぐみには一番心配だった。
 メデュノアが『問題ない』とは教えてくれたけれど、それが本当なのか疑ってしまう。めぐみに心配をかけまいとしているのではないかと、そう思ってしまうのだ。
 その遣り取りを見ていたセドリックさんはくすくす笑いながら、それはないですよとフォローに入る。

「それだったら、めぐみさんをここに連れてくるわけないでしょう?」
「た、確かにそうですよね」
『まったく。俺は魔王だから、ちっとやそっとじゃ何もならないんだよ』

 魔王だからという理由にくくられてはしまったが、メデュノアが無事ならそれでいいとめぐみ思ってしまう。
 しかし、このままずっと魂がうさちゃん人形の中――というわけにはいかないのだ。もしかしたら、魂を体に移す方法があるのだろうかとめぐみは考えた。

「もしかして、ノアを体に返す方法があるんですか?」
『ああ』
「あるにはあるんですけど――。メデュノア、私が説明しますか?」
『俺がするからいい。お前はどっか行っとけ』
「あ、酷いですねぇ。健気にノストファティアまで迎えに行った部下にたいして」

 文句をいいつつも、あまり気にしてないらしいセドリックはくすりと笑う。
 寝ている人型のメデュノアを見た後、めぐみにちらりと視線を向ける。思わずめぐみが首を傾げると、セドリックは「見学したいんですけどねぇ」と呟く。

「何をですか?」
「めぐみさんが、メデュノアの体に魂を返して起こすところですかねぇ」
「私に、それができるんですか?」

 セドリックの言葉に、よかったと胸をなで下ろす。
 自分に力で元にもどしてあげれるんだと喜んで、ベッドで寝ているメデュノアへ視線を向ける。セドリックに「すぐにやりましょう」と意気込めば、しかしメデュノアに怒られる。

『こいるは禁止だ。とっとと仕事にもどっとけ』
「まったく、部下使があらいですねぇ。じゃぁ、先に戻ってますが――わかってますか? ちゃんと体をもどすんですよ?」
『わかってるよ!』

 しつこいセドリックにブチ切れて、メデュノアがさっさと部屋から追い出した。
 とたん静かになった部屋にはめぐみとメデュノアの二人だけ。

「ノア、はやくしよう。方法を教えてくれる?」
『――……』

 まさかキスをすればいいとは言いだしづらく、メデュノアは口を紡ぐ。

 ――どうする。
 セレイツにファーストキスを奪われて泣いていためぐみだ。キスをすれば体が元に戻るなど、そう簡単には言えないメデュノアだ。
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