山窩村
「そっか...守、他に好きな人でもいるのかな?見た感じいい感じの関係の女の子は莉音以外浮かばないけど...」
私の呟きに同調するかのように、鉄平は腕を組んで難しい顔を作った。
「う〜ん...全く分からん....ま、それは二人の問題さ。いずれ守が返事をするだろうし、じゃあ俺も帰るわ。」
そう言うと鉄平は私の頬に手を添えて、そっと優しくキスをしてくれた。身も心も安らぐような鉄平のキスは私の心を浄化してくれているかのように心地よかった。
「改めて誕生日おめでとうな薫。んでこれからもよろしくな。」
「うん。今日は本当にありがとう。また明日ね。」
まだ一緒にいたいという気持ちを押し殺しながら、私は鉄平手を振って見送った。
何もかもが最高の一日、私は明日死んでしまうんじゃないかと思ってしまう程、幸せに満ち溢れていた。
この時間が止まればいいのにと私は何回も思った。
この時の私は、この一時がこれから先も続くであろう人生の中で最高潮の幸せになるとは思いもしなかった。
『人生はプラスマイナスゼロ』どこかで聞いたことがあるこの言葉
人生いい事ばかりではないとは知っていた。
だが、これから降りかかるマイナスはあまりにも大きく、この時のプラスなんてちっぽけなものと思ってしまうのだった。