大人になんて、ならないで。
2階の、手前から2番目の部屋。
……なんで、いない?
まだ帰ってないのかな…また、残業?
家にいないなら無駄足だったな、と来た道を戻ろうとしたら
反対側から2人分の足音が近付いてきた。
やばっ。
別になにも悪いことしてないけど、やってることがストーカーすぎて、バレないように上着のフードを被って背を向けた。
そのまま何事もなく去ろうとしたけれど、
耳に届いた声に、俺は電柱に隠れるようにして足を止めた。
「…あの、送っていただいてありがとうございます」
「いいえ。お礼を言うのはこっちです。
今日は俺のわがままに付き合ってもらって、ありがとうございました」
女の人と、男の人の声が聞こえる。
それを無視できなかったのは……
女の人の声が、俺の…大好きな人のものだったから。