大人になんて、ならないで。
「でも…俺の手をとってくれれば、きっと忘れられます」
ダメですか?と部長が私の顔を覗き込む。
そんな部長に、私は首を横に振った。
「何もかも、私が悪い…っ、
苦しいのは、自分のせいで…
今さら……また一緒にいたいなんて言えないけれど…っ、
でも……っ、部長とはお付き合いできません…」
ごめんなさい、と頭を下げると
部長が諦めたようにため息をつく。
きっと、慰めようとしてくれたんだろう。
部長の手が、私の頭を撫でた……瞬間。
「お客様。
俺の婚約者に触れないでいただけますか?」
顔を見なくても、わかる。
大好きな人の声が、すぐ隣から聞こえた。