大人になんて、ならないで。
そう言って、部長は嫌な顔を見せずに笑う。
……なんて、大人なんだろう。
この人を“大人”と呼ぶのなら、
私はまだまだ“子ども”…そう感じてならない。
「それじゃあ安井さん。
あったかくして、ちゃんと休んでください」
「……はい…。
あの…っ、
ありがとうございました、部長」
私が頭を下げてから笑顔を見せると、
部長の顔が、ほんのり赤く見えて。
「……いーえ」
部長が眼鏡を持ち上げる仕草をすると、パッと視線を逸らした。
「……?」
「じゃあ…俺は帰ります。
明日には、元気な姿を見せてくださいね」
部長は軽く頭を下げて、アパートの階段をおりていった。
……本当に、部長にはお世話になりっぱなしだ。