京の都 陰陽師
ある日、博雅は、浮かれていた。
「(こんな日は、晴明と飲もう!!)
(あっ、魚でも買って行くか…。)」
博雅は、魚屋に寄った。
「へいっ!!
らっしゃい!!
これは、博雅様。
何にしやすか?」
博雅は、並んでる、魚を見た。
「片口鰯を十二匹…、もらおうか…。」
「へいっ!!
ありがとうごぜぇやす」
魚屋は、すぐに、準備してくれた。
「また、ご贔屓に!!」
「ありがとう」
五分後、晴明の屋敷に辿り着いた。
「(もう着いてしまった…。)
(出迎えが無いと言うことは、二人は、留守だな…。)
(どうしよか…。)」
晴明邸の前で、佇(たたず)んでいると、珱姫の式神が、出てきた。
「博雅様、珱姫様からの伝言です。
「すぐ、戻りますので、中でお待ち下さい。」との事です。
どうぞ。
お入り下さい。」
「あぁ、すまぬ…。」
博雅は、屋敷に入った。
「二人は?」
「お買い物に出られております。」
「そうか…。」
「博雅様。
その包みは、何ですか?」
「あぁ、これは、晴明達と食べようと思った、魚だ。」
「何の魚です?」
「片口鰯だ。」
「えは、お預かりして、料理して、よろしいですか?」
「あぁ、頼む。」
「ご希望の調理法はござますか?」
「煮付けにしてくれ。」
「かしこまりました。」
式神は、調理にとりかかった。
しばらくすると、ご飯の炊ける匂いと、魚の煮付ける匂いがし始めた。
「(ん〜…。)
(いい匂いだ…。)
(晴明達は、まだか?)
(腹が減ったぞ…。)」
もう、よだれが垂れそうな、博雅の前に、晴明と珱姫が、帰ってきた。
式神達は、晴明と珱姫の足を洗った。
晴明と珱姫は、博雅の待つ、部屋に行った。
「博雅様、お待たせしました。」
「おかえり。
晴明、珱姫。」
「なんだか、いい匂い…。」
「そうなんだ。
ここに来る前に、魚屋に寄ってな…。」
そこに、式神が、ご飯の乗った、御膳と酒を持って来た。
晴明と珱姫は、大喜び。
三人で、食事をし、酒を飲みながら語り合い始めた。
「どないしたんや。
魚なんか買うて来て…。」
「じ…、実は…。」
「実は?」
「実は…、気になる、女子が出来たのだ…。」
「まぁ、それは、良き話ですこと!」
珱姫は、にっこり、微笑んだ。
博雅は、照れた。
「で、どこで、出会うたんや?」
「う…、右大臣様の宴だ…。」
「右大臣様の宴?」
「そうだ。
私に、お酌してくれてな…。
その立ち振る舞いは、花の如く美しく…。
私は、一瞬で、心を奪われたのだ…。」
「ほぉ…。
で、その女子の名は?」
「そ…、それが…。
分からぬのだ…。」
「なんやて?」
「だから、分からぬのだ…。」
博雅は、目を逸(そ)らした。
「右大臣様の宴やったら、誰か知ってる人、おるやろ?
右大臣様に招待された人か、右大臣様の妻の誰かやないん?」
「それが、誰も知らぬと…。」
「知らんやて?」
晴明と珱姫は、驚いた。
「あぁ…。」
「うーん…。」
晴明と珱姫は、悩んだ。
「妙な、話やな…。
右大臣様の宴に、誰も知らん者が、誰にも知られず、入り込むなんて、無理やろ…。」
「私もそう思って、宴に来ていた人々に聞いたのだが…。
誰も知らぬと…。」
「うーん…。
益々、謎やな…。」
「晴明!!
その女子の事を調べてくれ!!
頼む!!」
晴明と珱姫あ、顔を見合わせた。
「博雅様、晴明様の式神では、限界がございます。
あたしの式神を使って、調べてみましょう。」
「本当か?!!
珱姫!
調べてくれるか?!!」
「はい。」
博雅は、大喜びで、晴明邸をあとにした。
「晴明様、早速、明日から、調べてみます。」
「分かった。
頼んだで?」
「はい。
お任せください。」
次の日、珱姫は、早速、式神達を使って、博雅の思い人を探し始めた。
式神達は、方々(ほうぼう)聞いて回った。
そして、その一体が、帰って来た。
「珱姫様。
博雅様の思い人お名が分かりました。」
「本当?!!
名は?
名はなんと?」
「あおい様と申されます。」
「…あおい様…。
(なんだか、嫌な予感がするわ…。)」
「はい。
ただ、このお方、博雅様の言う通り、謎多き方…。
もしかしたら、人の子ではないかも知れません。」
「そう…。
ありがとう…。
(益々、嫌な予感…。)」
珱姫は、方々に散った、式神を集めた。
「みんな、ご苦労様。
博雅様の思い人の名が分かりました。
名は、あおい様。
あおい様は、人の子ではないかも知れません。
今後は、その事を頭に入れて、お住まいを探して。」
式神達は、あおいの住まいを探しに行った。
珱姫は、晴明に伝えに行った。
「晴明。
博雅様の思い人の名が分かりました。」
「ほんまか?
何て名やったん?」
「あおい様とおっしゃるそうです。」
「あおい殿…?
なんや、嫌な予感がすんねんけど…。」
「あたしもなんです…。
もしかしたら、あの、あおいではないかと…。」
「迷い込めれへん宴で、誰も知らへんって事は、人の子やないと思うてたけど…。
思っとった通りかも知れへんな…。」
「はい。」
「住まいは?」
「今、あたしの式神達が、調べてます。」
「そうなんや。」
そこに、博雅が来た。
「晴明!
来たぞ。」
「博雅。

珱姫、酒を…。」
「はい。」
珱姫は、酒の準備をしに行った。
「(おつまみは…。)
(煮物でいいかしら…。)」
珱姫は、酒とつまみを持って、晴明の所に戻った。
晴明と博雅は、酒を酌み交わした。
「ところで、博雅。
お前の思い人の名が、分かったで。」
「本当か?!!
して、名は?
名は、なんと申すのだ?」
博雅は、目を輝かせた。
晴明は、珱姫の目を見た。
それを受けて、珱姫が答えた。
「あおい様と申されるそうです。」
「あおい殿…。
あおい殿と申されるのか…。
あおい殿…。」
博雅は、何度も、その名を呼んだ。
「住まいは?」
「お住まいは、まだ、知り得ていません…。」
「そうか…。」
「今、あたしの式神達が、方々、探し回っています。
もうしばらく、お待ち下さい。」
珱姫は、晴明w見た。
晴明は、珱姫を見て、決心した。
「博雅…。」
「なんだ?」
「もしかしたら、あおい殿は、僕達が知っている人かもしれへん…。」
「本当か?!」
博雅は、また、目を輝かせた。
「せやけど、僕らの知ってる人やったら、止めた方がええ。」
「何故だ?!!」
「人ではないからや。」
「では、私の知ってる、あおい殿ではない!
私の知ってる、あおい殿は、人だからだ!」
「人に見えて、人やないんや…。
僕らの知ってる、あおい殿やったら、止めた方がええ。」
博雅は、むすっとした。
そこに、珱姫の式神が一体戻ってきた。
「珱姫様。」
「何?」
式神は、珱姫に、耳打ちした。
「あおい様の住まいが分かりました。」
「本当?
で、住まいは?」
「残念ながら、珱姫様の知っている方でした。」
「そう…。」
珱姫は、晴明に耳打ちした。
晴明は、深いため息をし、重い口を開いた。
「やっぱり、あおい殿は、僕らの知ってる人やった…。」
「そ…、そんな…!!
でも、私が出会ったのは…!」
博雅は、信じようとしなかった。
晴明と珱日姫は、困り果てた…。
「せやったら、あおい殿の所へ行くか…?」
博雅は、力強く、何度も頷いた。
「しゃあないな…。」
晴明は、頭を掻いた。
「ほな、行こうか…。」
晴明と珱姫は、博雅を連れて、とある森に来た。
「晴明、ここは、森だぞ…?」
博雅は、不思議そうな顔をしていた。
「そうや。
この奥にあるのが、あおい殿の住まいや。」
珱姫は、式神を五体出した。
その五体に、灯りの灯った、ぶら提灯(ちょうちん)を持たせた。
晴明達は、その灯りを頼りに、奥へと進んで行った。
「晴明、珱姫、まだ、着かぬのか?」
珱姫が、答えた。
「もう少しです。」
すると、深い森の中に、湖が現れた。
晴明と珱姫は、その湖の前で止まった。
「ここや。。」
「ここって、湖じゃないか!」
「そうや。
ここが、あおい殿の住まいや。」
博雅は、半信半疑だったが、湖の真ん中から、ぴちゃんと水音がした。
「おっ…、おい…、晴明…!
今、湖から水音が…。」珱姫が答えた。
「あおいです。」
すると、一人の女性が、すぅーーと現れた。
「晴明様、珱姫様、お久し振りにございます。」
博雅は、女性の顔を見ると、呟いた。
「あおい殿…。」
「やっぱり、あおい殿やったか…。」
頷く、博雅。
あおいは、博雅を見た。
「晴明様、珱姫様、こちらの方は…?」
「源 博雅言うて、僕の友人や。
博雅から聞いたけど、右大臣様の宴に行ったそうやな。」
「はい。
参りました。」
博雅は、二人の会話に割って入った。
「あおい殿!!
私は、あの宴の時より、そなたのことを…。」
「博雅様と申されましたよね?
晴明様と珱姫様から、お聞きになってないのですか?
わたしは…。」
あおいは、下を向いた。
「構わぬ!
二人から、人でないと聞いておるが、私は構わぬ!」
「博雅様…。
お気持ちは、嬉しゅうございます。
でうが、お気持ちには沿えませぬ。」
「なぜだ?!!」
「人ではなくなったからです。」
「晴明達も言っていた。
人ではなくなったとは…?」
「わたいは妖なのです。
人としての命は、とうに過ぎております。」
「…妖…?
どこから見ても、人にしか…。」
博雅は、あおいを上から下まで、まじまじと見た。
「人前では、化けているのです。
わたしの本当の姿は、妖狐。
この深い森が、住まいです。
わたいは、長く人に化けては、おれませぬ。
あの宴が、限界にございます。
それ故に、ここから、なかなか、出ることが、出来ませぬ。」
晴明は、あおいに、問いかけた。
「あおい殿、そもそも、なぜ、宴に行ったんや?」
「とても楽しそうだったもので…。」
「そうやったんか…。」
「人でなくても構わぬ!
私は、そなたのことが…。」
「どうか、お諦めください。」
「諦めぬ!!
お主に会えるなら、毎日、ここに通おう。
ここに来るのは、自由であろ?」
「そうですが、必ず、わたしが来るとは、限りません。
それでも良いと申されるなら…。」
「それでも良い!!」
「分かりました。」
あおいは、博雅の熱意に負けた。
博雅は、大喜び。あおいは、ふふっと笑って、 森の中に消えて行った。
晴明邸への帰り道。
「晴明、今宵は、気分がいい!」
「それは良かった。
ほな、帰って酒を飲もう!」
「そうだな。」
「結局、お酒なんですね。
お二人共。」
三人で笑った。
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