京の都 陰陽師
ある日、博雅が、慌てた様子で、晴明邸に向かっていた。
それを、街に置かれた、式神が、珱姫に伝えに来た。
「珱姫様。
何やら、かなり、お急ぎの様子で、こちらに向かって、おいでです。」
「博雅様が?
分かったわ。
晴明様に伝えないと…。
珱姫は、すぐ、晴明に伝えた。
「分かった。
すぐ、出迎えてくれ。」
「はい。」
珱姫は、門の所で、博雅を待った。
「博雅様、お待ちしておりました。」
「おぉっっ…!!
珱姫っっ…!!
せっ…、晴明は…?!!」
博雅は、息を切らしながら、珱姫に訴えた。
「お部屋で、お待ちしております。」
「そ…、そうか…。」
博雅は、晴明の所へ行った。
「晴明…っっ!!」
「どないしはったんや?
そない慌てはって…。」
「これが、慌てずにおれるか!!」
「なんや?
どないしはったんや?」
「右大臣様のご子息が…!!
あぁ…っっ!!
口では、説明できぬ!!
すぐ、来てくれ!!
珱姫もっっ!!」
「珱姫は、ダメや!!
右大臣様は、惚れやすいと聞く!
珱姫を見たら、惚れられるかもしれへん!!」
晴明は、凄い剣幕で怒鳴った。
「そ…、そうか…。
では、晴明だけ来てくれっ!!」
「分かった。」
晴明と博雅は、右大臣の元へと出向いた。
博雅は、右大臣の部屋の前で、声をかけた。
「右大臣様。
安倍晴明を連れて参りました。」
「おおっ!!
博雅!!
晴明を連れて参ったか!」
右大臣は、障子戸を開けた。
障子戸を開けた、右大臣は、がっかり…。
「珱姫は、来ておらぬのか…?」
「はい。
妻には、妻の仕事がありますので…。
(やはり、珱姫狙いか…。)」
「それは、残念だ。」
「(珱姫はに会わす訳ないやろ!)
右大臣様、本日のご用件は?」
「おぉっ!!
そうだ!!
息子を見て欲しいのだ!!」
「ご子息を?
分かりました。」
「おぉっ!
見てくれるか?!!」
「はい。」
「たかこ
たつきを連れて参れ!!」
障子戸が開き、一人の女性が、赤子を連れて入ってきた。
右大臣は、女性と赤子について紹介した。
「この者は、たかこ。
わしの妻の一人だ。
赤子の母親でもある。
赤子の名は、たつき。
たつきの様子を見て欲しいのだ!!」
たかこは、晴明は、たつきを手渡した。
元気に動く、たつき。
一見した所、何の異常もなく、元気なたつき…。
だが、以後型から、呪詛(じゅそ)が感じとれた。
「失礼します。」
晴明は、たつきの産着をはだけさせた。
たつきの右肩には、赤黒いでき物が、出来ていた。
その赤黒いでき物は、ぐにゃぐにゃと動いていて、気持ち悪かった。
あまりの気持ち悪さに、たかこは、目を背(そむ)けた。
「こ…、これは…。」
「晴明、どうだ…?」
「これは…。
とても、強い呪詛をかけられとります。」
「呪詛?!!」
「はい。」
「誰が
そんなものを…!!」
右大臣は、怒り、閉じた扇子を真っ二つに折った。
「晴明、何とかしてくれ!!」
「分かりました。
時は一刻を争います。
すぐに、術式の準備をします。
僕が、術式を行なってる間、皆様には、出て頂きます。
この部屋には、僕とたつき様のみにして下さい。
覗くことも禁止です。」
「わ…、分かった…。
お主の言う通りにしよう。」
晴明は、すぐに、術式の準備を始めた。
一ヶ所を除き、全ての、障子戸にににぎのみこと神社のお札貼った。
「術式の準備が完了しました。
ここからは、皆様いは部屋を出て行ってもらいます。
僕が、開けるまで、開けないで下さい。
博雅、お前も出てくれ。」
「わ…、分かった。」
「それでは、失礼します。」
晴明は、障子戸を閉め、お札を貼った。
「さてと…。
始めるか…。」
晴明は、樒の葉を一枚、清酒に浸した。
そして、たつきの周りに、ににぎのみこと神社のお札を置いていった。
晴明は、樒の葉を浸した、清酒の前で、祝詞を唱えた。
その清酒をたつきの身体に塗り、清酒に浸してあった、樒の葉をでき物の上に置いた。
それだけで、たつきの息遣いが、荒くなっていった。
晴明は、人差し指と中指で、樒の葉を押さえ呪文を唱え始めた。
赤黒いでき物は、ぼこぼこと動き始めた。
晴明は、呪文を唱え続けた。
すると、赤黒いでき物から、黒い煙が出てきた。
黒い煙は、部屋の中を円を描く様に、ぐるぐると回った。
晴明は、黒い煙に刀を振り下ろした。
「邪気退散!!
喝っっ!!」
黒い煙は、綺麗に消え、たつきの息は戻り、でき物は、消えた。
晴明は、深呼吸をして、障子戸を開けた。
「全て終わりました。
皆様、どうぞ中へ…。」
たかこは、たつきに、走り寄った。
「たつきっ!!」
たかこは、たつきの身体を調べた。
「で…、でき物が…、なくなってる…。
兼家様、ご覧下さい!!
たつきのでき物が…。」
たかこは、たつきを兼家に見せた。
「うむうむ。
晴明、良くやってくれた。
して、何者が、我が子に呪詛を?」
「そこmでは、分かりませんでした。
けど、僕と同じくらいの力の持ち主なのは、確かです。」
「なんと…!!
その様な者が、我が子に、呪詛を…。」
「はい。
誰か、分からへん以上、また、呪詛をかけられるかもしれません。
お気をつけ下さい。
僕は、これで…。」
「いや、待て!!」
「何ですか?
(何や、嫌な予感するんやけど…。)」
「明日の夜、宴をする。
晴明、お主の妻を連れて参れ。」
「(そうきたか…。)
(珱姫、連れて行くん、嫌やな…。)」
晴明が黙っていると、念を押された。
「良いな?」
晴明は、渋々、了承した。
晴明と博雅は、右大臣の用意した、牛車にそれぞれ、乗り、晴明は帰り、博雅は帰る前に、あおいの所に行った。
「おかえりなさいませ。
晴明様。」
「…珱姫…。」
晴明は、出迎えた、珱姫を抱きしめた。
「どうなさったのです?」
「…実は、右大臣様の宴に、招かれた…。」
「まぁ、それは、良きことではございませんか。
何か、ご不満でも?」
「不満も何も…。
その宴に、珱姫も呼ばれたんや!!」
「あたしもですか?!」
「そうや!!」
頭を抱える、晴明。
珱姫は、晴明を抱きしめた。
「大丈夫です
あたしは、晴明様のものです。
他の殿方のものには、なりません。
ご安心下さい。」
「…珱姫…。」
晴明と珱姫は、抱きしめ合った。
次の日の昼、博雅が来た。
「ところで、晴明。」
「何や?」
「呪詛をかけても、何の報(むく)いも受けないのか?」
「いや、受けるで?」
「えっっ?!!」
「僕が、今回したんは、呪詛返し言て、呪詛をかけた者に、かけた呪詛と同等の力が返ってくるって言術やねん。
だから、ただでは済んでへんはずや。」
「そうなのか?
でも、そんな噂、宮中では、広がってないぞ?」
「それは、その報(むく)いを式神や、別の人に当たる様にしていたら、別やけど…。
それやったら、術者は、何の報いも受けへん。」
「そんな…。」
「多分、今回のは、式神が受けてるやろな。」
「何故そう思う?」
「名の売れてる、陰陽師が亡くなれば、噂になるがなってない。
僕と珱姫くらいの力の持ち主なら、式神を使うからや。」
「なるほど…。」
「呪詛をかけるって言んは、それなりの報復g返ってくることを肝に銘じとかないけん。
それだけ、呪詛言んは、恐ろしいもんなんや。
ほら、よう言やろ?
人を呪わば穴二つ。
ほんまに、その通りなんや…。」
「なるほど…。
今日の右大臣様の宴、呼ばれたんだろ?」
「あぁ、珱姫もや…。」
「やっぱり、呼ばれたか…。」
「あぁ…。
僕は、もう、心配で…、気が狂いそうや…。」
「晴明…。」
夜、右大臣の遣いが来た。
「安倍 晴明。
源 博雅。
珱姫。
迎えに参った。」
牛車は、三人分、用意されていた。
「珱姫と別の牛車なんやな…。」
「そうだ、早く乗れ。」
右大臣の宴に着くと、すぐに、宴が始まった。
宴には、右大臣の全ての妻と子ども達が、参加していて、大きな宴になっていた。
右大臣の奥方は、鬼の形相で珱姫を見た。
珱姫は、その鬼の形相を無視し、晴明と話しながら、食事をしていた。
そこに、にやけた顔の右大臣が、やって来た。
「お主が、珱姫か?」
「さようにございます。
本日は、お招き頂き、ありがとうございます。
大きな宴ですね。」
「お主の為に、開いたようなもんだ。」
「でも、ご子息を助けられたのは、晴明様ですよね?
なら、この宴は、晴明様の宴です。
あたしは、何もしてませんから。」
珱姫は、微笑んだが、目は笑ってなかった。
右大臣は、舐める様に、珱姫を見た。
「噂通りの、美しい女子だ…。」
「お褒め頂き、ありがとうございます。」
珱姫は、再び、微笑んだが、めは笑ってなかった。
「珱姫…。
お主、法力の方も、晴明と変わらぬ強さだとか…。」
「そうですね。
でも、晴明様の方が、お強いですよ?」
「しずか様を浄化したのも、お主とか…。」
「浄化だなんて…。
あたしは、ただ、祝詞を読み上げただけです。
生前、お顔を拝見し、お話しもしておりましたので…。」
「うむうむ…。
こんなに美しいのに、夫を立てることも忘れず、良い女子だ。
晴明が、羨ましいぞ。」
右大臣は、笑った。
珱姫も笑ったが、やはり、めは笑ってなかった。
そして、晴明にくっついた。
「あたしは、晴明様の虜にございます。」
珱姫は、頰を赤らめた。
晴明は、右大臣にお酌をしたが、こちらも、めは笑てなかった。
「右大臣様、どうぞ、一杯。」
「おぉ、すまんな。」
盃の酒を飲み干した、右大臣。
「珱姫は、本当に美しいな…。」
「右大臣様の奥方も、お美しい方ばかりではございませんか。」
「そうか?
お主と比べば、お主の足元にも及ばん者ばかりだ。」
「その様なこと、申しては、いけませんよ。
お戯(たわむ)れがすぎますよ?」
右大臣は、笑った。
宴も終わり、晴明と珱姫は、屋敷に帰り、博雅は、あおいの所に行った。
博雅は、いつものように、笛を吹くと、あおいが現れた。
「あおい殿…。
本日は、お会い出来た…。」
博雅は、満面の笑みで、あおいを迎えた。
「博雅様。」
あおいは、照れた。
「今宵は、右大臣様の宴に行って参った。
晴明と珱姫も一緒に。」
「そうでしたか。
楽しまれたのですね?
良かったです。」
「あぁ…。
しかし、右大臣様が、珱姫に
夢中になってな…。
晴明は、気が気でないのだ。」
あおいは、ふふっと笑った。
「そのことでしたら、大丈夫ですよ。
珱姫様は、お強いお方ゆえ一蹴なさるでしょう。」
「そうだろうか…。」
「はい。」
あおいは、にこりと笑った。
それから、他愛のない話をし、幸せな時間(とき)を過ごした、博雅。
そして、家路に着いた。
それを、街に置かれた、式神が、珱姫に伝えに来た。
「珱姫様。
何やら、かなり、お急ぎの様子で、こちらに向かって、おいでです。」
「博雅様が?
分かったわ。
晴明様に伝えないと…。
珱姫は、すぐ、晴明に伝えた。
「分かった。
すぐ、出迎えてくれ。」
「はい。」
珱姫は、門の所で、博雅を待った。
「博雅様、お待ちしておりました。」
「おぉっっ…!!
珱姫っっ…!!
せっ…、晴明は…?!!」
博雅は、息を切らしながら、珱姫に訴えた。
「お部屋で、お待ちしております。」
「そ…、そうか…。」
博雅は、晴明の所へ行った。
「晴明…っっ!!」
「どないしはったんや?
そない慌てはって…。」
「これが、慌てずにおれるか!!」
「なんや?
どないしはったんや?」
「右大臣様のご子息が…!!
あぁ…っっ!!
口では、説明できぬ!!
すぐ、来てくれ!!
珱姫もっっ!!」
「珱姫は、ダメや!!
右大臣様は、惚れやすいと聞く!
珱姫を見たら、惚れられるかもしれへん!!」
晴明は、凄い剣幕で怒鳴った。
「そ…、そうか…。
では、晴明だけ来てくれっ!!」
「分かった。」
晴明と博雅は、右大臣の元へと出向いた。
博雅は、右大臣の部屋の前で、声をかけた。
「右大臣様。
安倍晴明を連れて参りました。」
「おおっ!!
博雅!!
晴明を連れて参ったか!」
右大臣は、障子戸を開けた。
障子戸を開けた、右大臣は、がっかり…。
「珱姫は、来ておらぬのか…?」
「はい。
妻には、妻の仕事がありますので…。
(やはり、珱姫狙いか…。)」
「それは、残念だ。」
「(珱姫はに会わす訳ないやろ!)
右大臣様、本日のご用件は?」
「おぉっ!!
そうだ!!
息子を見て欲しいのだ!!」
「ご子息を?
分かりました。」
「おぉっ!
見てくれるか?!!」
「はい。」
「たかこ
たつきを連れて参れ!!」
障子戸が開き、一人の女性が、赤子を連れて入ってきた。
右大臣は、女性と赤子について紹介した。
「この者は、たかこ。
わしの妻の一人だ。
赤子の母親でもある。
赤子の名は、たつき。
たつきの様子を見て欲しいのだ!!」
たかこは、晴明は、たつきを手渡した。
元気に動く、たつき。
一見した所、何の異常もなく、元気なたつき…。
だが、以後型から、呪詛(じゅそ)が感じとれた。
「失礼します。」
晴明は、たつきの産着をはだけさせた。
たつきの右肩には、赤黒いでき物が、出来ていた。
その赤黒いでき物は、ぐにゃぐにゃと動いていて、気持ち悪かった。
あまりの気持ち悪さに、たかこは、目を背(そむ)けた。
「こ…、これは…。」
「晴明、どうだ…?」
「これは…。
とても、強い呪詛をかけられとります。」
「呪詛?!!」
「はい。」
「誰が
そんなものを…!!」
右大臣は、怒り、閉じた扇子を真っ二つに折った。
「晴明、何とかしてくれ!!」
「分かりました。
時は一刻を争います。
すぐに、術式の準備をします。
僕が、術式を行なってる間、皆様には、出て頂きます。
この部屋には、僕とたつき様のみにして下さい。
覗くことも禁止です。」
「わ…、分かった…。
お主の言う通りにしよう。」
晴明は、すぐに、術式の準備を始めた。
一ヶ所を除き、全ての、障子戸にににぎのみこと神社のお札貼った。
「術式の準備が完了しました。
ここからは、皆様いは部屋を出て行ってもらいます。
僕が、開けるまで、開けないで下さい。
博雅、お前も出てくれ。」
「わ…、分かった。」
「それでは、失礼します。」
晴明は、障子戸を閉め、お札を貼った。
「さてと…。
始めるか…。」
晴明は、樒の葉を一枚、清酒に浸した。
そして、たつきの周りに、ににぎのみこと神社のお札を置いていった。
晴明は、樒の葉を浸した、清酒の前で、祝詞を唱えた。
その清酒をたつきの身体に塗り、清酒に浸してあった、樒の葉をでき物の上に置いた。
それだけで、たつきの息遣いが、荒くなっていった。
晴明は、人差し指と中指で、樒の葉を押さえ呪文を唱え始めた。
赤黒いでき物は、ぼこぼこと動き始めた。
晴明は、呪文を唱え続けた。
すると、赤黒いでき物から、黒い煙が出てきた。
黒い煙は、部屋の中を円を描く様に、ぐるぐると回った。
晴明は、黒い煙に刀を振り下ろした。
「邪気退散!!
喝っっ!!」
黒い煙は、綺麗に消え、たつきの息は戻り、でき物は、消えた。
晴明は、深呼吸をして、障子戸を開けた。
「全て終わりました。
皆様、どうぞ中へ…。」
たかこは、たつきに、走り寄った。
「たつきっ!!」
たかこは、たつきの身体を調べた。
「で…、でき物が…、なくなってる…。
兼家様、ご覧下さい!!
たつきのでき物が…。」
たかこは、たつきを兼家に見せた。
「うむうむ。
晴明、良くやってくれた。
して、何者が、我が子に呪詛を?」
「そこmでは、分かりませんでした。
けど、僕と同じくらいの力の持ち主なのは、確かです。」
「なんと…!!
その様な者が、我が子に、呪詛を…。」
「はい。
誰か、分からへん以上、また、呪詛をかけられるかもしれません。
お気をつけ下さい。
僕は、これで…。」
「いや、待て!!」
「何ですか?
(何や、嫌な予感するんやけど…。)」
「明日の夜、宴をする。
晴明、お主の妻を連れて参れ。」
「(そうきたか…。)
(珱姫、連れて行くん、嫌やな…。)」
晴明が黙っていると、念を押された。
「良いな?」
晴明は、渋々、了承した。
晴明と博雅は、右大臣の用意した、牛車にそれぞれ、乗り、晴明は帰り、博雅は帰る前に、あおいの所に行った。
「おかえりなさいませ。
晴明様。」
「…珱姫…。」
晴明は、出迎えた、珱姫を抱きしめた。
「どうなさったのです?」
「…実は、右大臣様の宴に、招かれた…。」
「まぁ、それは、良きことではございませんか。
何か、ご不満でも?」
「不満も何も…。
その宴に、珱姫も呼ばれたんや!!」
「あたしもですか?!」
「そうや!!」
頭を抱える、晴明。
珱姫は、晴明を抱きしめた。
「大丈夫です
あたしは、晴明様のものです。
他の殿方のものには、なりません。
ご安心下さい。」
「…珱姫…。」
晴明と珱姫は、抱きしめ合った。
次の日の昼、博雅が来た。
「ところで、晴明。」
「何や?」
「呪詛をかけても、何の報(むく)いも受けないのか?」
「いや、受けるで?」
「えっっ?!!」
「僕が、今回したんは、呪詛返し言て、呪詛をかけた者に、かけた呪詛と同等の力が返ってくるって言術やねん。
だから、ただでは済んでへんはずや。」
「そうなのか?
でも、そんな噂、宮中では、広がってないぞ?」
「それは、その報(むく)いを式神や、別の人に当たる様にしていたら、別やけど…。
それやったら、術者は、何の報いも受けへん。」
「そんな…。」
「多分、今回のは、式神が受けてるやろな。」
「何故そう思う?」
「名の売れてる、陰陽師が亡くなれば、噂になるがなってない。
僕と珱姫くらいの力の持ち主なら、式神を使うからや。」
「なるほど…。」
「呪詛をかけるって言んは、それなりの報復g返ってくることを肝に銘じとかないけん。
それだけ、呪詛言んは、恐ろしいもんなんや。
ほら、よう言やろ?
人を呪わば穴二つ。
ほんまに、その通りなんや…。」
「なるほど…。
今日の右大臣様の宴、呼ばれたんだろ?」
「あぁ、珱姫もや…。」
「やっぱり、呼ばれたか…。」
「あぁ…。
僕は、もう、心配で…、気が狂いそうや…。」
「晴明…。」
夜、右大臣の遣いが来た。
「安倍 晴明。
源 博雅。
珱姫。
迎えに参った。」
牛車は、三人分、用意されていた。
「珱姫と別の牛車なんやな…。」
「そうだ、早く乗れ。」
右大臣の宴に着くと、すぐに、宴が始まった。
宴には、右大臣の全ての妻と子ども達が、参加していて、大きな宴になっていた。
右大臣の奥方は、鬼の形相で珱姫を見た。
珱姫は、その鬼の形相を無視し、晴明と話しながら、食事をしていた。
そこに、にやけた顔の右大臣が、やって来た。
「お主が、珱姫か?」
「さようにございます。
本日は、お招き頂き、ありがとうございます。
大きな宴ですね。」
「お主の為に、開いたようなもんだ。」
「でも、ご子息を助けられたのは、晴明様ですよね?
なら、この宴は、晴明様の宴です。
あたしは、何もしてませんから。」
珱姫は、微笑んだが、目は笑ってなかった。
右大臣は、舐める様に、珱姫を見た。
「噂通りの、美しい女子だ…。」
「お褒め頂き、ありがとうございます。」
珱姫は、再び、微笑んだが、めは笑ってなかった。
「珱姫…。
お主、法力の方も、晴明と変わらぬ強さだとか…。」
「そうですね。
でも、晴明様の方が、お強いですよ?」
「しずか様を浄化したのも、お主とか…。」
「浄化だなんて…。
あたしは、ただ、祝詞を読み上げただけです。
生前、お顔を拝見し、お話しもしておりましたので…。」
「うむうむ…。
こんなに美しいのに、夫を立てることも忘れず、良い女子だ。
晴明が、羨ましいぞ。」
右大臣は、笑った。
珱姫も笑ったが、やはり、めは笑ってなかった。
そして、晴明にくっついた。
「あたしは、晴明様の虜にございます。」
珱姫は、頰を赤らめた。
晴明は、右大臣にお酌をしたが、こちらも、めは笑てなかった。
「右大臣様、どうぞ、一杯。」
「おぉ、すまんな。」
盃の酒を飲み干した、右大臣。
「珱姫は、本当に美しいな…。」
「右大臣様の奥方も、お美しい方ばかりではございませんか。」
「そうか?
お主と比べば、お主の足元にも及ばん者ばかりだ。」
「その様なこと、申しては、いけませんよ。
お戯(たわむ)れがすぎますよ?」
右大臣は、笑った。
宴も終わり、晴明と珱姫は、屋敷に帰り、博雅は、あおいの所に行った。
博雅は、いつものように、笛を吹くと、あおいが現れた。
「あおい殿…。
本日は、お会い出来た…。」
博雅は、満面の笑みで、あおいを迎えた。
「博雅様。」
あおいは、照れた。
「今宵は、右大臣様の宴に行って参った。
晴明と珱姫も一緒に。」
「そうでしたか。
楽しまれたのですね?
良かったです。」
「あぁ…。
しかし、右大臣様が、珱姫に
夢中になってな…。
晴明は、気が気でないのだ。」
あおいは、ふふっと笑った。
「そのことでしたら、大丈夫ですよ。
珱姫様は、お強いお方ゆえ一蹴なさるでしょう。」
「そうだろうか…。」
「はい。」
あおいは、にこりと笑った。
それから、他愛のない話をし、幸せな時間(とき)を過ごした、博雅。
そして、家路に着いた。