あの日のこと






「菜子ちゃん!」

「ほぇ!?」


急に呼ばれたせいで変な声が出た。




「待って、菜子ちゃん今の声おかしすぎ」



声の方を振り返るとお腹を抱えて笑う

ショートカット美人って言葉がぴったりな

ひとつ上の先輩の薫さんがいた。



「急に呼ぶから…」

「だって菜子ちゃん楽しそうに試合見てるし

全然気づいてくんないんだもん」


口を尖らせながら私の横に腰を下ろした。




「寒そ…」

「次の試合出るしいいの!」


そう言ってはにかむ薫さんは半袖半ズボンで

ひざ掛けが手放せない私からすると

考えられない格好だった。



「菜子ちゃん 一緒に試合出ようよ〜」

「寒いんで見るだけで大丈夫です」


間髪入れずに断ると薫さんは

また拗ねたような素振りをして

私の頭を掴むと急に撫で回した。


「ちょっと!!ぐちゃぐちゃになっちゃいます!」


そう言って薫さんを無理やり剥ぎ取ると

嬉しそうな顔をして

「無愛想な菜子ちゃんが可愛いから悪い!」

そう言って抱きついてくる。



この流れが最近のお決まりだったりする。


それを見て周りの人もくすくす笑うけど

私的には毎回髪がボサボサになるわけで

あんまり嬉しいわけではない。


…嫌なわけでもないけど。




薫さんは満足そうな顔をして立ち上がると

「試合見ててね〜」って叫びながら

展望台を駆け下りて言った。





……元気すぎ。


薫さんと話すと子供を見守る母親の気持ちになる。




元気な薫さんは微笑ましくて

見てるだけで笑みがこぼれた。






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