あの日のこと







笛の音が山の中に響き渡ると

さっきまで試合をしていた人達が

展望台に上がってくる。




それと同時に薫さん達のチームが試合を始める。



さっきまでの試合は男の人だけだったのに対して

今度は男女混合の試合で

高い声が響くせいで試合も賑やかだった。




試合に女子が出ていって

さっきまで試合をしていた人達が戻ってきた分

展望台の上にいる男の人の人口が多くなった。





試合終わりの選手は服を脱いで休憩するし

目のやり場に困るしで

だんだん居づらくなって

体操座りしていた足に顔をうずめながら

試合を眺める。







ふとした時、煙草の煙が鼻をかすめた。


その煙の匂いは少しきつくて顔の前を手で払う。






「めっちゃ嫌そうにするやん、ごめん」




鼻で笑いながら低い声がそう言った。

声の方を向くと黒髪で短髪のガタイがいい

男の人が立っていた。



紫の練習着を着たその男は

煙草を消すわけでもなく向きを変えるだけで

私から少し離れて腰を下ろした。


でも煙は確かにかかってこなかった。





見たことない人。




サークルにでるほとんどの人は

1年生か2年生のどちらかで

だいたい顔は把握していたつもりだった。



もしこの男がサークルに出ていたら

綺麗な顔立ちだから覚えているはず。



3年生の先輩なのかもしれない。




「煙草嫌い?」


「あ、いや、あの、……少し煙たくて」


話しかけられると思わなくて

言葉が詰まる。

男はそんな私を見て少し笑うと

コートに目を移して楽しそうに眺めた。





「…3年生さんですか?」



話すには少し遠くて

だけど沈黙を貫くのも少し気まずい距離感。


それに耐えられなかった。



「うん」



試合を眺めたまま男は頷く。

目線は合わせないけれどどこか優しい声。




私はそれ以上話す言葉も思いつかずに

更に顔を足にうずめて試合を眺めた。






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