大人になった日に、家族を見つけました

「おいしいご飯を食べに行こう。少し話したいこともあるんだ」

いつもと変わらない詩音がいるはずなのだが、断れる空気ではなかった。初音はコクリと頷き、詩音の車に乗り込む。

振袖を奪われたあの日以来、初音は詩音からデートに誘われても断っていた。詩音に会うと、泣いて甘えてしまいそうだったからだ。これ以上、詩音に迷惑はかけられない。

いつもはお喋りが弾む車の中は、静かだった。初音はぼんやりとした頭で車の外を見つめる。振袖のことはなるべく考えないように意識する。

「着いたよ」

詩音に優しく言われ、車を初音が降りると、そこには庶民が明らかに通う場所ではない立派な料亭だった。

「詩音さん、私……」

お金を持っていない、と初音がいう前に、詩音にキスをされていた。唇が触れるのが久しぶりで、感触が心地いい。初音は無意識のうちに、何度も求めていた。

「お金は僕が出す。だから、初音はリラックスして料理を楽しんで」