もう一度あなたに恋をする

転勤

三月三十日
私、九条あかね(25)は生まれて初めて一人暮らしを始めます。


小学校三年生までは父の転勤で西日本の各地を転々としていた。
それも私が四年生以降は無くなりずっと大阪で暮らしていたのに!

入社三年目の冬、私が勤める BRIHT FUTURE㈱大阪事務所が
年明け三月末をもって閉鎖されることになった。

与えられた転職探しの猶予は四か月・・・。
皆は知っていたのだろうか。
思い起こせば夏を最後に大阪単独での仕事は入ってこなかったな。

なかなか次の就職先を決めれない私に
『九条さん、本社に来る気ない?』と社長からの天の声。

無職にならずに済むと一瞬喜び即答しそうになったが、
本社勤務となると東京での一人暮らしをする事になる。

父の転勤が無くなり正社員で働き出した母を手伝っていたから
家事全般はできる。
だから一人暮らしをしてもたぶん不自由はない。
ただ知らない土地、しかも都会での一人暮らしが不安で返事が出来なかった。

『今月中に返事くれるかな?』

今二月八日、あと二十日以内で決断せねばならない。

BRIHT FUTURE㈱は商品の企画開発を主に行う会社であったが
ここ数年でものに限らずイベント、町おこし、都市計画なども
手掛けるようになった。

私の仕事はデザイン企画部に所属をしているが
直接企画を出す側のスタッフではない。
その人達のアシスタントである。
そんなアシスタントが転勤だなんて前例がない。

でも自分が少しでも携わったものが形となっていくのを
間近で感じられるこの仕事が大好きだ。

二月二十八日、期限ギリギリで社長に連絡を入れた。

「大阪事務所の九条です。本社でお世話になります!」

そう返事をすると
『良かった。ちょっとダメかと思ってたんだよ。
 早くて正確な仕事をしてくれる九条さんを手放すのは
 惜しかったからね。』
ととても喜んでもらえた。

なぜだか社長は入社当時から私の事を娘のように
可愛がってくれていたのだ。


それから一か月は大変だった。
平日は大阪事務所での残務処理、週末は東京で家探し。
二回目の上京で家が決まれば次は生活をするための家具家電揃え。

そして昨日、大阪事務所の最後を見届け今朝早い新幹線で
東京までやってきた。
衣服など最後まで必要だったものを引っ越し一人暮らしパックで
送ってあるものが今日の三時ころに届く。

今日と明日の二日で片づけなければならない。
明後日、四月一日には本社勤務が始まるのだ。
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