もう一度あなたに恋をする

甘いひととき

「九条さん、おはようございます。」

誰かが私の名前を呼んでいる。
ぼんやりと目を開けると見慣れない天井があった。
体中が痛い。

そうだ、病院だ。

「体温測って下さい。その間に血圧測りますねー。」

看護師さんが私に質問をしながらテキパキと計測を始めた。

「彼氏さんかっこいいですね。もう本当に心配でたまらないって感じで、ずっと手を握っておられましたよ。いいなー、私もあんな彼氏ほしいです。」

私とそう変わらないであろう年の看護師さんに言われ、昨日の事を思い出した。
恥ずかしい・・・。一人ならまた布団に潜り込んでしまっていただろう。



十時前、夏樹さんが会社に置きっぱなしになっていた私のカバンと入院に必要なものを持って来てくれた。

「朱音ー。心配したんだからね。」

昨日私が病院に搬送されてからチームのみんなに滝沢さん、高木さん、みどりさんは誰一人帰ろうともせず久瀬さんからの連絡を待ってくれていたと言う。

「すみません。ご心配おかけしました。」

「ホントよ。朝から大変だったし疲れてたんだろうけど、階段で転げ落ちるなんて。」

「・・・・」

「朱音?・・・どうしたの?気分悪くなった?」

夏樹さんは私が階段を踏み外したと思っている。
誰かに背中を押された感覚は確かにあった。しかも落ちた後誰かに何か言われたような気がする。でも確信が持てるかと言われれば・・・。

「いえ・・・。大丈夫ですよ。打ち身で体中痛いですけど。」

私は夏樹さんに動揺を知られないように話をそらした。



朱音さんが社に戻りカバンの中に入れっぱなしになっていた携帯を確認すると母からの着信とメッセージが十件以上入っていた。

(滝沢さんと言う方から連絡をもらったの。大丈夫なの?)

など私を心配するものばかりだった。
今も正社員で働いている母、いつも仕事中は私用の電話は出ないがかけてみる事にした。
プルル、プルル 『朱音!』と直ぐに出たのでビックリした。
今朝、久瀬さんから連絡をもらい今の状態は分かったが心配なので昼からこちらに来る予定で仕事を調整していたと言う。

「大丈夫。入院中は来てもらっても何もする事ないし週末には退院できるみたい。だから週末から来てくれる方がありがたい。打ち身で体痛いから。」

そう伝えると少し安心したのか

「じゃあ週末に行くわ。暫くお手伝いさんしてあげる。」

と電話を切った。
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