もう一度あなたに恋をする

スタート

本社は二十二階建てビルの十五階~十八階にある。
そして私の所属するデザイン企画部は総勢九名しかいなかった大阪事務所とは違い、部内だけで5チームあり1チームがチームリーダー(課長)一人、チーフ(主任)二人とスタッフが十人前後、アシスタントが二~三人の十三人前後で構成されているから約七十名。大企業に比べれば少ないかもしれないが何せ所内九名で3三年間過ごしてきた私からすれば未知の世界だ。


九時をまわり新入社員と共に配属される部署へ案内された。
部長の横に並び、新入社員五名の自己紹介の後私は紹介された。

「そしてこちらが大阪事務所からきた九条さんだ。久瀬チームの田丸さんの代わりに入ってもらう。」

「大阪から移動になりました九条朱音です。よろしくお願いいたします。」

アシスタントが転勤と言う今までにないことに部内がざわついた。

「以上、新人研修は各チームに任せるからリーダーはよろしくな。」

部長の一言で各々仕事に取りかかった。

「九条さん、チームのメンバーを紹介する。こっち。」

チーム久瀬は企画部内の一番端に島があった。
久瀬さんが前に立つとみんなが集まってきた。

「じゃあ俺から。チームリーダーの久瀬です。よろしく。・・・先に九条さんから。」

うっ、この人苦手かも・・・。

「あっ、はい。九条朱音です。よろしくお願いします。」

緊張で少しうわずった声になってしまったが、先ほど全員の前で挨拶した時の反応とは違い笑顔を見せてくれホッとした。

「寺川班から。」

「はい。寺川です。九条さんとは班が違うけど仕事頼む時もあるからよろしくね。」

「はい、よろしくお願いします。」

「笹井みのりです。よろしくね。」

次々と寺川班のメンバーの挨拶が進む。

「立花です。よろしくお願いします。」

私と同じアシスタント。同じチーム内でたった二人のアシスタントだから一番仲良くなりたいのに、なぜだか早速壁を作られたように感じた。

「次、九条さんが所属する森谷班。」

「チーフの森谷です。よろしくね。」

「松本夏樹です。ようこそ森谷班へ!九条さんが来てくれるの首を長ーくして待ってたの。」

「えっ?」

「さっき名前が出てた田丸さん、前のアシさんが急に旦那さんの転勤で辞めちゃったんだ。比較的仕事も落ち着いていたからよかったけど、彼女が抜けて一か月大変だったんだ。」

いくら社長からお声をかけて頂いた移動でもただのアシスタント、チームのみんなが受け入れてくれて嬉しかった。
全員の自己紹介が終わりその後は松本さんに社内の案内をしてもらい、自分のデスクのパソコンの設定、前任の田丸さんが残してくれたデーターや資料のチェックなどをしているとあっという間にお昼になっていた。
「九条さん、お昼どうするの?」

「今日は何も用意してないのでコンビニでも行こうかと。」

「じゃあ下にお弁当屋さんが来るの、一緒に行きましょ。」

本社にも社食はない。普段はお弁当を持って来るのだがさすがに引っ越し三日目でお弁当を作る余裕も体力もなかった。
コンビニでも探さなきゃと思っていたので松本さんの誘いは凄く助かった。
しかもビル向かいにある広場に移動店舗が来るとは。お弁当、カレー、サンドウィッチに丼物など、どの店もとても美味しそうで迷ってしまう。

迷った結果ロコモコ丼を購入し松本さんがいつも昼食をとっていると言うミーティングブースへ戻った。そこには飲み物を用意して笹井さんと隣のチームの女性が待っていた。そういえば松本さんは三つお弁当を買ってたっけ。

「お待たせー。早く食べよう!お腹ペコペコ。」

「ちょっと夏樹さん、先に私の自己紹介させて下さい。」

「ごめん。寝坊して朝抜きだったから。どうぞ。」

「もー。改めまして大槻みどりです。夏樹さんとみのりさんの一こ下なの。隣のチームだけどよろしくね。」

「こちらこそよろしくお願いします。」

「もー、なにこの可愛い生き物!朱音って呼んでいい?ダメって言っても呼ぶけどー。」

大槻さんに挨拶をしていると横に座る松本さんに抱きつかれた。
よく分からないけど先輩たちには気にいられたのかな?
地元の友達が『職場内での女の派閥争いは怖いよー』とよく言ってたのを思い出し、いい先輩が同じチームで良かったと胸をなでおろした。

そしてふと立花さんがいないことが気になった。

「あの、立花さんは?」

「あー、あの子なら気にしなくていいわよ。最初誘ったんだけど断られたから。」

今までと違い冷たい返答が少し気になったが他の二人もウンウンと頷いているのでそれ以上は聞かないことにした。その後はお互いの事を色々と話楽しい女子会ランチとなった。
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