もう一度あなたに恋をする

真実

手術室に入る朱音を見送り滝沢に連絡を入れるため駐車場に停めてある車に戻った。
スマホを手に取るが血の気の引いた冷えた手になかなか反応しない。

早く朱音の両親への連絡と午後からのスケジュール変更をお願いしないといけないのに。

「滝沢。」

『おっ、もう帰ったのか?』

何も知らない親友が楽し気にからかった声で言う。

「・・・。」

状況を説明しようとすると手術室に入る朱音の姿を思い出し、手だけでなく喉も震えて声がなかなか出せないでいた。

『佑?』

会社では名前で呼ぶことのない親友が俺の事を名前で呼んだ。勘のいいヤツだから姿は見えなくても俺がいつもと違うと気づいたのだろう。

「朱音が、・・・病室に着いた時には意識がなくて・・・検査して・・・・・。」

『えっ?でっ、九条さんは今どうしてる?」

「手術室。緊急手術することになって、さっき手術室に入った。」

やっと声が出るようになってきた。親友の声を聞き頭も回るようになってきた。

「悪いが朱音の両親に連絡を取ってくれるか?それとこのまま俺は病院に残るから午後からの事も頼む。」

『分かった。こっちの事は大丈夫だ。それよりお前大丈夫か?さっきよりは落ち着いた声になってきたけど。』

「大丈夫・・・だと言いきりたいが分からん。お前の声を聞いて少し落ち着いたけどな。・・・自分でも驚いてるよ、こんなに取り乱したことないから。・・・・今、車の中なんだ。もう少し落ち着いたら中に戻る。電源落としてるから連絡取れないがよろしく頼むよ。」

『ああ、また状況連絡してくれ。』

何とか滝沢に状況を伝え電話を切った。
早く朱音のそばに戻らなければ、心は焦るが体の震えが止まらない。頭の中に最悪の事態がよぎってしょうがない。俺はハンドルに突っ伏した。


※ ※ ※

久瀬からの電話を切り急ぎ社長室に向かった。

「社長、九条さんの様態が急変し緊急手術になったそうです。」

「病院から連絡があったのか?」

冷静を装う社長の声も硬い。

「いえ。彼女は今日退院予定だったので久瀬が迎えに行ったんですが、あいつが病室に着いた時にはもう意識が無くなっていたそうで。」

「そうか。滝沢君、悪いが直ぐに九条さんの親御さんに連絡を入れてくれるか。」

「はい。また久瀬から連絡が入りましたらお知らせします。では失礼します。」

社長室を出た俺は誰もいない会議室に入り、九条さんの母親に連絡を入れた。
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