もう一度あなたに恋をする

目覚め

家族待機室で祈りながらソファーに座っていた。どれくらい時間が経っただろ。看護師に案内され一組の夫婦が入ってきた。女性の顔を見ればどことなく朱音に似ている。

「あの、九条朱音さんのご両親でしょうか?」

声をかけてみた。

「はい!朱音の母です!」

朱音の母親は『朱音、朱音』と俺に縋りつくように泣き出した。一緒にいた男性が『落ち着きなさい』そう言いながら母親をソファーに座らせた。

「いきなり申し訳ない。朱音の父です。」

父親の方は落ち着いているらしい。

「朱音さんの上司の久瀬佑です。本当にこの度は申し訳ございません。」

頭を下げた。

「あなたが久瀬さんですか。朱音からあなたの話を聞いたことがあります。」

「えっ?」

「あの子がこっちには尊敬できる上司がいるんだって、楽しそうに話してくれました。」

「そうですか。そう思ってもらえて嬉しいです。・・・・あの、私も状況を把握しきれてないのですが・・・」

滝沢から連絡を受け急ぎこちらに来て、何も聞かされていないご両親に自分が聞いたことを伝えた。
昨晩八時ころに面会した時はいつもと変わらず医師からも退院の許可をもらった事。
今朝迎えに来た時は意識がなくなった後で検査のために病室から連れ出される時だった事。
看護師の話では今朝のバイタルにも異常はなく朝食も完食していたと。しかし退院後の注意点を伝えに来た時には意識が無くなっていたらしい事。
頭を強く打った場合、数日から長ければ数か月経った後に朱音のように症状が出る事がまれにあるらしい事。

「では昨晩、いえ今朝の朝食時間までは何もなかったんですよね。・・・病院にいるから安心してたのに。」

泣き崩れそうになる妻の肩を抱き寄せ

「雪穂、病院にいたから良かったんだ。自宅で一人だと誰も気づく者はいない、最悪は・・・」

と最後は言葉を詰まらせていた。気丈に見えるが娘が緊急手術を受けているのだ内心気が気ではないはずだ。
三人無言のまま待機室で朱音の無事を祈る。時間だけが刻々と過ぎていく。どれくらい時間が経っただろう、看護師さんが『手術が終わりました。医師の方から説明がありますのでこちらにお願いします。』とご両親を呼びに来た。

「あの!俺も一緒に聞かせてもらえませんか?」

『申し訳ございませんが、ご家族の方だけ』と看護師が言いかけたが『一緒に聞いて下さい。いいですよね?』とお父さんが許可を出してくれたおかげで医師からの説明に同席させてもらう事ができた。

手術に至った経緯は看護師さんから説明されたものとほぼ同じだった。
そして手術はうまくいったので命の心配はほぼないだろうと。しかし後遺症が残る可能性があるとの事だった。それは手が動きにくいなどの体に出るものだったり、記憶障害が出ることもあるとのこと。全ては朱音が目覚めないと分からないらしい。

とりあえず朱音を失う事は無い、それだけで今は十分だった。
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