もう一度あなたに恋をする
医師からの説明を受けた後、手術室から出てくる朱音をご両親と共に待った。やっと出てきた朱音の体にはたくさんのコードが繋がっている。もともと色白の彼女だが一段と白く感じ、今にも消えてしまいそうだった。
朱音が目覚めるまで病院内にいたかったが『今晩は術後回復室です』と言われ、また心労と疲労で今にも倒れそうな母親を休ませた方がいいと朱音の家までご両親を送る事にした。相当気も張っていたのであろう母親は車に乗ってすぐ後部座席で眠ってしまった。

「久瀬君、妻を降ろしたらコンビニまで案内してくれるかな?君も疲れているところ悪いが。」

『途中、寄りましょうか?』そう聞くと『いや、二人で話もしたいし。』と。
奥さんに聞かれず俺に聞きたいことがあるんだろう。
病院から三十分ほどで朱音のマンションに着いた。奥さんを部屋まで連れて行き、戻ってきた朱音の父親と二人近くのコンビニまで歩いて行く。そして食料品や下着、洗面用具などを買い店を出た。

「久瀬君と朱音は・・・」

「はい。最近ですがお付き合いさせていただいてます。」

「やはりそうですか。」

退院の迎えや手術の説明時の同席を求めた俺との関係がただの上司と部下ではないと感じていたんだろう。

「あの、朱音、さんとお付き合いさせて頂くようになったのは最近ですが、私が朱音さんに惹かれたのはもっと前からで・・・。」

「ははは、一目ぼれ?朱音かわいいからなー。」

余りの返答の緩さに驚いた。もっと何か言われると思っていたから。

「はい。いえ、・・・仕事はいつも完璧なんです。でもよく見てるとドジなところもあって。あっ、すみません。」

「いやいや、いいよ。その通りだから。でもよくあの子の事見てくれてるみたいだね。家でもよく抜けたことしてたよ。」

その後もマンションに着くまでの短い間だったが朱音の会社での様子などを話ながら戻った。そしてお父さんが『ありがとう』とマンションに入ろうとした時思わず『あの』と中に入ろうとするお父さんを引き止めた。
今まで朱音の周りで起こったことを話すべきか迷ったが、後で他の者から聞かされるより俺が伝えた方がいいと思い。

「九月末に大きなプロジェクトのアシスタントが朱音さんに代わったんです。」

「街をつくるっていうやつかな?」

「はい。当初から朱音さんがアシスタントにと思っていたんですが、いろいろあって別の者がアシスタントに入っていたんです。ですが実力以上の仕事についてこれず朱音さんと代わってもらう事になったんですが・・・。その少し後から社内で朱音さんに対する嫌がらせが始まってしまって。」

「嫌がらせ?」

「すみません。朱音さんに対する嫉妬心からだと思います。仕事もできてしかも俺との距離が近い。・・・自分で言うのもなんなんですが、社長の息子で・・・。」

「なるほどね。君に好意を持っていた子たちが嫌がらせを始めたと。」

「はい。誰が始めたとか誰がやっているとか特定はできていないのですが、俺はそう思ってます。」

もっと上手く伝えたいのに言葉がまとまらない。でも俺はそのまま話を続けた。

「それで、あの日は今までのようなちょっとした嫌がらせではなく彼女のパソコンデータと机の中の資料が無くなっていて・・・・。午後からそのプロジェクトの会議が入っていたので朱音さんは頑張ってデータを作り直してくれました。朱音さんのおかげで会議も無事終わり翌日からの仕事に支障をきたさないよう失ったデータを復元するため彼女は一人先に会議室を出ました。エレベーターがなかなか来なかったから階段で降りた方が早いと思ったんだと思います。」

お父さんは何も言わずただ俺の言葉を黙って聞いていてくれた。

「部屋の外がざわつき出し部下が『九条さんが階段から落ちた』と伝えに来ました。朱音はドジなところもあるけど・・・。」

言葉が詰まって出て来ない。

「そうか。」

「すみません。俺の、俺と関わらなければ朱音はケガをする事もなかったかもしれない。彼女が嫌がらせを受けているのを知っていたのに守りきれなくてすみません。」

頭を下げ顔を上げれずにいた俺の肩を叩き『妻には今話してくれたことは暫く黙っているよ。あいつも今そうとう混乱しているからね。久瀬君、話してくれてありがとう。』そう言いお父さんはマンションの中に入って行った。

俺は自分のマンションに帰ってきた。シャワーを浴び、ずっと何も食べていなかったことに気づきお腹はすいていないがカップラーメンを食べた。そしてベッドに横になったが朱音の事が気になって眠れない。朝七時、早いが身支度をし朱音がいる病院へと戻った。
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