もう一度あなたに恋をする
その日の夕方、父も大阪に帰る事になった。明日はどうしても抜けれない会議があるらしい。もう大丈夫だから父と一緒に帰ってと母に言ってみたが『心配だから休みが取れるギリギリの火曜日までいる。』とあと二日残る事になった。

帰り際、父はもう一度私に『やっぱり戻って来ないか?』と聞く。前に聞かれた時は答えれなかった。でも今は・・・。

「お父さん、ごめんね、心配かけて。でも私残りたい。」

周りの人達は私の事を知っている。知らないのは自分だけ。そんな中で生活していくのは正直不安だらけだ。でもやっぱり『残りたい』と思ってしまう。久瀬さんの言葉を聞いてからは特に。

「まだ暫く入院も続く、退院しても通院が必要だろうから直ぐには戻って来れないだろう。時間はある、ゆっくり考えなさい。」

父は残っていいとは言ってくれなかった。親の事を考えるとこれだけ心配をかけたんだ戻った方がいいのだと思う。でも何か引っかかるものがある。大切な何かを忘れているような。

「うん、焦らずゆっくり考える。」




火曜日の夕方には『朝、昼、晩。ちゃんと連絡入れてよ』と私の心配をしながら帰って行った。母が帰ってしまえば私の病室を訪れる人はいない。

「明日から、何して過ごそう・・・。」


次の日は午前中に軽くリハビリ?運動をして、昼から洗濯物をして・・・。
会話もリハビリの先生と掃除のおばちゃん、バイタルチェックに訪れる看護師さんと少し話すくらい。いつまで入院生活が続くのか分からないが『これからずっと一人か・・・』と心が沈んでいた。

七時過ぎ、コンコンとドアをノックし入って来たのは久瀬さんだった。

「気分はどう?」

優しい口調で聞いてくれる。彼の顔を見ただけで沈んでいた気分も上昇する。

「大丈夫です。でも母が帰ってしまったのでヒマで・・・。」

「そうか。じゃあヒマつぶし出来そうなもの明日来るときに持って来ようかな。」

また明日来てくれると言う彼の言葉が嬉しくて心がザワつく。

『じゃあまた明日』面会終了の八時になったので立ち上がった彼の袖を思わず掴んでしまった。

「あっ、あの・・・・。そう!よかったらチームのメンバーの写真とかあれば持って来て教えてもらえませんか?戻るまでに覚えておきたいので。」

咄嗟に言い訳を考えてしまった。

「わかった。明日持って来るよ。おやすみ。」

頭をポンポンと優しく撫でて久瀬さんは帰って行った。




私、今の感覚知ってる・・・。
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