もう一度あなたに恋をする

病院から戻った時はいつも通りだったのに、お昼休みから戻った朱音の様子がおかしい。顔も赤いし、熱が出たのか？でも一緒にいる松本たちは気にしてないようだし。

「九条、体だるくないか？顔赤いぞ、いつもより。」

「へっ？いやっ、大丈夫です。」

返答もやっぱりおかしい。近くで確認しようと席を立ったところで華乃がまた周りも気にせず大きな声で話しかけてきた。

「佑ー。私まだ契約更新の書類もらってないけど？もう一か月きったしそろそろ書類人事に提出しなきゃでしょ？」

そう言いながら俺の腕に絡みついてきた。うっとおしい。

「大塚さんの契約書必要ないから。」

一瞬固まった華乃だったが何を持ったのか

「佑、もう更新手続きしてくれたんだ。ありがと！」

「いや、言葉のままで大塚さんとの契約更新はしない。三月末までだから書類は必要ない。」

俺は朱音のもとへ行こうと華乃の腕をはがし答えた。

「えっ、でもそれじゃあアシスタントどうするの？」

「大塚さんに心配してもらわなくても四月以降のアシスタントは手配済みです。」

「片山君は誰もいないから私が引き続きって・・・。」

「片山？あいつは知らないと思うよ。社長と人事部長と俺で決めたから。プロジェクトもどんどん忙しくなる。通常業務もあるから出来る人が必要なんでね。」

抑揚のない声で答えた。さすがに頭がお花畑の華乃にも伝わったのか絶句したまま立ちつくしている。

「話はそれだけか？早く作業に戻った方がいいんじゃないか？今日中のものあるんだろ？」

黙ったまま立ち続ける華乃だったが、ハッと何を思いついたのかとんでもない事を口にしだした。

「あっ、もう！そう言うことね！」

？何がそう言う事なんだ？俺だけじゃなく周りの奴らも首をかしげている。

「奥さんが同じ部署ってダメだもんね。」

満面の笑みで一人語る華乃。こいつの頭は本当に大丈夫だろうか。
このまま話を続けるのもめんどくさかったが、ここで終わりにすれば絶対にややこしくなる。そしてまた変な噂がたつのも困る。
俺は久しぶりに華乃の目を見て話しをした。

「お前とは三年前に終わってるだろ？実際はもっと前から俺の中でお前とは終わっていたがな。どんな思考回路になったら俺との結婚にたどり着くんだ。」

「だって三年前は専務と立花さんが邪魔しただけで。」

「そう思ってるのは大塚だけだ。俺の事知った途端にお前は俺への態度が変わった。その時点で俺の中では終わってんだよ。恋人としてはもちろん気の合う同期としても。」

さすがに恋人としてでなく仕事の上でも終わっていると言われショックなのか茫然とする華乃。

「もういい。お前がいても雰囲気が悪くなるだけだ。明日から末までは有休扱いにしてやるから来なくていいぞ。とりあえず早く今日の分仕上げろ。」

「でもそれじゃあ仕事が回らないでしょ？」

やっと口を開いた華乃の言葉にイラっとした。俺は今まで職場で出したことのない声で華乃を切り捨てた。

「お前のしている仕事ならチームでまかなえる。今日ももういい、帰れ！」

部内の空気が凍り付いたようになった。
その後動けずにいた華乃を滝沢が一度ミーティングルームに連れて行きそして帰宅させていた。

一息ついて朱音を見れば、先ほどの顔の赤みは消えていた。逆に青くなっているような。
まずい、朱音まで怯えさせてしまったか・・・。