もう一度あなたに恋をする
近くで誰かの話声がする。

(俺、朱音と出かけてたんだけど急に朱音が倒れて・・・ん、大丈夫。検査結果に異状はない。でもまだ目が覚めないんだ。悪いけど俺の車取って来てくれない?ちょっと遠いけど。・・・いつも悪いな。・・・ああ、また連絡する。)

この声、久瀬さん?


思い瞼をゆっくりとあげる。

白い天井・・・、ああ病院か。そう言えば階段から落ちて入院したっけ。

退院の準備して・・・、眠くなって寝ちゃったんだ。


「九条?よかった目が覚めて。」

久瀬さん・・・、『朱音』じゃなかった。私の事好きだって言ってくれたのは、あれは夢だったのかな。



退院許可は出てるのに先生も来られて何故か診察されている。なぜ?

「先生?私、今日退院していいんですよね?」

「えっ・・・・。九条さん、今日は何月何日?」

「?えっと、十二月六日です・・・よね?」

先生、看護師さん、九条さんが顔を見合わせている。何?私、何か変なの?
すると久瀬さんが恐る恐るといった感じで聞いてきた。

「朱音?」

あっ、今度はちゃんと朱音だ。

「はい。」

「朱音は会社で階段から落ちた。それは覚えてる?」

「はい。会議が終わって早くデスクに戻ろうと思って階段に行って・・・。」

あの時の事を思い出し背中に寒気が走った。

「九条さん、今日は三月二十九日なんだ。君は退院する直前に意識を失い手術をした。」

先生が言うには私は退院の日意識を失い手術を受けた。そして体に後遺症は残らなかったが約一年間の記憶が無くなっていたと言う事だ。そして今の私は術後、記憶を無くしていた約四か月間の記憶がない。

先生は一通りの説明をし『今日は念のため一泊してね。』と病室を後にした。






「朱音・・・。」

名前を呼ばれ温かい腕に包まれる。

「久瀬さん?」

いつもの様に額に優しいキスが落ちる。

「良かった。朱音の記憶から俺が忘れられたと分かった時はどうしようかと絶望した。でもやっぱり朱音を手放せなかった。」

それから久瀬さんは私が忘れた四か月の間の私たちの事を話してくれた。

そして翌日、体調の変化も無いので退院が許可され家に戻った。
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