いちご
声を掛けられ、釣られるように顔を上げた。
「…………すごーい!!」
目の前には、キラキラと輝く夜景が、何の邪魔もなく見渡せる場所が広がった。
背の高いビル群や、住宅街からの光が、宝石のように瞬いている。
「端まで行くぞ」
手を引かれたまま、コンクリートでできた胸まである壁までやって来て、慶兄と並んで眺めると、ふと慶兄を見上げた。
「ちょっと息抜き」
優しく笑う慶兄の瞳に夜景が写り込んで、不思議に感じた。
「こんな場所あったんだね」
「たまーに一人で来るんだ」
そう言って前を向き直り、手を繋いだまま慶兄は体を折り、コンクリートに肘をついた。
特に話す事もなく、じっと夜景を眺めた。
吸い込まれそうな光を見つめていると、何だか物凄く心が穏やかになっていく。
慶兄が握る手を、私は無意識に握り返していた。