いちご
「んじゃ、行くわ」
そう言って私に向き直ると、口元を持ち上げた瑠衣斗に、私は少し寂しさを感じた。
「うん。じゃ明日ね」
笑って手を振るが、瑠衣斗は背中を向けようとしない。
え、なに?なに?
じっと私を見つめたまま、瑠衣斗は動かない。
私は、戸惑いの視線を向けて片手を上げた中途半端なまま、一時停止してしまった。
「んな顔すんなよ。行きずれえ。泣き虫」
ふっと表情を再び崩した瑠衣斗は、意地悪く笑って見せた。
「へ?…な、なによっ」
どもる私に向かって、今度こそじゃなあな~と手を振りながら背中を向け、玄関を開けて家を後にした。
意味分かんない…。
しばらく玄関に立ちっぱなしでいると、ガレージの方から瑠衣斗の単車の低いエンジン音が響き、音は家の前を横切り遠ざかっていった。
静けさが訪れた中、私はただボーッと立ち尽くすばかりだった。