いちご
迷子
人混みに紛れてグチャグチャにされてしまうと思っていた私は、すんなりと開ける道に躊躇していた。
『じゃまたね~ももちゃん♪』
『あ、うん。バイバイ』
明るく笑って見送ってくれた純平に挨拶をして、夏希と二人で店を出た。
沢山の大人が、陽気に声を上げて笑い、スーツを着た男性や、遊びに来ているであろう若者が数人で練り歩いている。
きらびやかなドレスやスーツを纏った女の人が、深く頭を下げて挨拶をしていたり、お客に向かって笑顔を振り撒いている。
普段からは想像つかない景色は、異様なモノでもあり、それも一つの世界だ。
景色をのんびり眺めていると、ふと人にぶつからず、避ける事もない事を不思議に思い、真横を歩く夏希を見上げた。
「どうした?疲れたかあ?」
「まだ店出たばっかだよ」
何となく視線を移した先には、夏希を見るなり道を開ける人波がある。
「おはようございますっ」
「はよ~」
きびきびと挨拶をしたスーツ姿の男性は、明らかにホストのようだった。
対照的なのんびりとした夏希の挨拶は、その関係を表しているようなものだ。
…夏希って……本当に何者。
ふと移した先には、綺麗に開かれる人波があり、私達を避けていく。
私達と言うより、夏希を避けていた。
「俺な~、この辺はちょーっと顔が効くんだ」
ニコニコ笑って言う夏希は、何の事でもなさそうに答える。
「…ふう~ん」
ちょーっと…ではないと思いますけど?