いちご
「はは、さすがにハチマキしてたらなぁ、面白すぎて手なんか出せない」
慶兄がクスクスと笑う度に、背中から低くて甘い声が響いてくる。
「ひどいよ…」
真っ赤な顔も、額のたんこぶも、ハチマキみたいなタオルも、もう見られたくない。
「可愛いよ…もものそう言う……たまに抜けた所も好きだ」
未だに耳元で、何だかやたら甘く囁く慶兄に、抵抗する気も起きない。
「…恥ずかしぃょ」
語尾になるにつれ小さくなっていった私の微かな抵抗は、何の効力もないだろう。
でも、他に言いたい言葉も浮かんでこない。
痛む額は、そこだけが独立したように意志があるようで、ジンジンと疼いている。
「そう言う所…もっと見たい。ももの気持ちを全部見たい」
「……私の…気持ち?」
私の気持ち…全部??
「一人で我慢してきた事も…素直な気持ちも、受け止めたい」
「………」
慶兄の一言は、私の胸を鷲掴みするように深く浸透するようだ。
何も言えない私を、慶兄は優しく腕を伸ばし、頭を撫でてくれる。
「なに…も、我慢なんてしてない」
こう言う時、きっと恋人とかなら素直に甘えたりするんだろうな。
でも、私はやっぱりどこか慶兄に負い目があるんだ。
そして、どこか心の中で、何かが引っ掛かっていて気になって仕方がないんだ。
――ゴメンね……慶兄。
言えない一言を、心の中で呟いた。
私は、怖いんだ。
自分の気持ちを言葉にするのが。